秋の夜長の定番
部屋の空気を入れ替えるのに窓を開けると、心地よい香りが風に乗って入ってきた。
その香りは、そう、庭の銀木犀が今年も咲いたに違いない。
この季節の銀木犀には、「ヴィオロンの溜息」がとてもよく似合うと思う小生である。
しかし残念なことに、ヴェルレーヌの詩というわけにいかないのは、クラシック音楽で溜息のような音色のバイオリンは、シゲティ以外に聞くことが出来ないからだ。
以前のブログで書いたように、シゲティのバイオリンは、ブルーグラスのフィドルの音色、ジプシーの弾くバイオリンの音色にも通ずるネイティブさを持ち合わせているようで、その音色はやさしくも柔らかくも無い。
そして小生にとってシゲティのバイオリンは、何時でもどこでもと、そんなにお手軽に聴けるものではないので、本当にその気になったときしか聴くことはない。
お手軽に、といっては失礼なのだが、アルビノーニのオーボエ協奏曲は、構えて聴く必要がないと同時に、秋にとても似合うと小生が思う曲の定番となっている。
オーボエをして、溜息のような音色であるとはいい難いが、アルビノーニには「溜息音型」と呼ばれる、2つの下降する音がスラーで繋がっているものが多いようだ。
人間の溜息の音を音符で再現すると、2度の下降音が繋がったもの、ときにより半音下がったものもあるが、すなわち「はーっ」とか「ふーっ」という溜息を髣髴させるので、そう呼ばれる音型のことと推測するが、果たして本当にそうなのかは定かではない。
この音型は、珍しいものではないようで、どの楽曲にもたいてい存在するが、其れが其れらしく聞こえるためには、作曲家の意識的狙い・・・意図の有無が重要ポイントであるように思う。
エルガーの、そのものずばりの音楽「ソスピリ」は別格だが、溜息音型のある音楽に「溜息」という意図があるかないかを嗅ぎ分けるためには、その音型の前後の曲の流れを聴くのが大切であると思うが、アルビノーニのアダージョ楽章を聴くと、アルビノーニには、一際そういう意図があったことを感じることがある。
そして以下のオーボエ楽曲は、その代表格であろうと小生は思っている。
オーボエ協奏曲 ニ短調 作品9の2 第2楽章、2つのオーボエのための協奏曲 ヘ長調 作品9の3 第2楽章 、オーボエ協奏曲 ハ長調 作品9の5 第2楽章 、オーボエ協奏曲 ト短調 作品9の8 第2楽章 、2つのオーボエのための協奏曲 ハ長調 作品9の9 第2楽章 、オーボエ協奏曲 変ロ長調 作品9の11 第2楽章。
アルビノーニのダージョ楽章は2楽章がほとんどで、前後楽章に挟まれたところにあることで、その音楽的魅力がいっそう力を発揮すると思うが、2楽章だけを切り取って聴いても十分通用してしまうほど、独立したところが見受けられる。
アルビノーニは、特別アダージョ楽章を重要視したのだろうと考えられるし、まずアダージョ楽章をつくり、その前後を アレグロ 楽章で囲むように配置したのではないかと思うのだがどうであろうか。
アレグロ楽章に囲まれることにより、アダージョ楽章はいっそうハイライトされるということになる。
そして、アダージョ楽章に多く見られるアルビノーニの溜息音型は、上昇する豊富な音群に埋もれて少し分かりにくいが、その後に必ず小さく下降する音があり、その中に隠れて存在する。
まるで他人に隠れてひっそりつく溜息のようで、実に慎ましやかである。
慎ましやか・・・其れがアルビノーニのアダージョ楽章の「溜息音型」が持つ魅力的なところだ。
ハインツホリガーob、パリ管弦楽団のob首席奏者だったモーリス・ブールグ、イ・ムジチ合奏団
01オーボエ協奏曲ニ短調op.9-2
022つのオーボエのための協奏曲ヘ長調op.9-3
03オーボエ協奏曲ハ長調op.9-5
04オーボエ協奏曲ト短調op.9-8
052つのオーボエのための協奏曲ハ長調op.9-9
06オーボエ協奏曲変ロ長調op.9-11
いつも思うのだが、演奏に比べ、このCDジャケットの醜いこと。
このCDを購入するのをやめよう、そしてブログに画像掲載をもやめようと思ったほどであった。
いくら廉価盤といっても手抜きも甚だしいと思うがいかがだろう。
ジャケット製作にも少しは気を使っていただきたいものだ。
演奏者に大しても失礼だと小生は強く思うのである。
by noanoa1970 | 2011-10-03 10:44 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(5)
挙げておられるCDは、私も持っております。確かに、ひどいジャケットデザインです。LPも持っていましたが、あのデザインは好きでした。
http://image.cau1.net/upload/image01/7/1/3256971-1.jpg
ハインツ・ホリガーは、奥さんで名ハーピストのウルズラ・ホリガーと夫婦して有名ですが、指揮者としても活躍していますね。ヨーロッパ室内Oを指揮したシェーンベルクの『浄夜』、室内交響曲第1番、第2番のapex盤しか持っていませんが、『浄夜』の演奏にはいたく感動させられました。カラヤン/BPOの濃厚なロマンティシズムとは対極にある、非常に繊細で淡々と進める演奏です。
そうなんです紹介いただいたジャケットとは雲泥の差です。
こうまで醜いジャケットでお茶を濁してしまう神経、小生にはサッパリ分かりません。このシリーズのホリガーの音盤は3種類ともそうです。
ホリガーの「浄夜」の存在知りませんでした。この曲はお気に入りでもありますから、聴いてみたいと思います。
カラヤンの「浄夜」は、最後のロンドン公演のブラ1とのカップリングのライブ演奏、TESTAMENT盤は特に素晴らしいです。
世間の目はブラ1に注目したようでしたが、小生はそれ以上に「浄夜」の出来栄えが素晴らしいと思っています。ロマンチックというより、表現主義的という厳しさのある表現で、カラヤンには珍しい演奏です。
少々変り種ですが、マールボロ音楽祭で演奏された6重奏版の演奏が聞き初めでした。
ブログ開始すぐの過去記事ですが以下に少し触れております。
http://sawyer.exblog.jp/1330864/
カラヤンの「浄夜」に関して下記のブログに書きました。http://sawyer.exblog.jp/9465989/
『浄夜』に関する玉稿、拝見いたしました。カラヤンのライヴ盤は未聴ですので、近々入手したいと思います。
マールボロ音楽祭での原典六重奏版とは珍しいものですね。六重奏版は、ブーレーズが監修したアンテンコンタルポランのものしか聴いたことがなく、弦楽合奏版で聴くのが常になっています。数種類のものを持っていますが、マリナー/ASMFのLPが一番好きで、カップリングが異なる同一演奏のもを2枚持っております。この演奏は、CD化されていないと思うのですが。
お読みいただいて光栄です。ありがとうございます。
ブーレーズはこの曲かなりの演奏があると思えば、監修までしているとは。ようですね。アンテンコンタルポランは小生未聴ですがぜひ聴きたいです。
合奏版はブーレーズNYP盤を一番良く聴いてきました。演奏録音ともによい演奏で、さすがNYPの一糸乱れることの無いアンサンブルは見事だと思います。
カラヤンライブは、音質が余りよくありませんが、それでも悲壮感絶望感のようなものが漂った、素晴らしい出来だと思います。
マリナーはあまり縁が無かった指揮者ですが、「 レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア」/マリナー指揮・ロスアンジェルス室内管弦楽団を聴いてから、近づきになれそうです。
マリナーのことですから、緻密な演奏なのでしょう。復刻されたら入手しましょう。