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「本物」ということ

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「人の目はごまかせても、キャメラの目はごまかせない。本物はよく写るものである。」・・・・とは映画監督小津安二郎の言葉である。。

今から3年ぐらい前だったか、今は無き「クラシック音楽の掲示板」で、「今まで聞いた中で一番優れた録音は?」というスレッドが立った。小生はクラシックでは思いつかなかったのと、アナログ録音の素晴らしさを紹介するために、「クラシック音楽ではないですが」とした上で、1970年代の中ほどに「スリー・ブラインド・マイス」から発売された、山本剛トリオの「ミスティ」と「ガールトーク」をあげて、「生より生々しい録音」という投稿をした。
しばらくして「生よりすごい録音など笑止千万」という反論があり、しばらくやり取りしたことがあった。一部のクラシックファンの中にはいまだに「生」に対する多くの幻想を抱いている人が多いのにしばし驚くことがある。。
一般的には「生」に勝るものはないといえそうだが、そうでないこともある。

例えば「生ビールとラガービール」・・・どちらが美味いかといわれれば、かなりの人が「生」という。しかしその前提条件は、温度管理の行き届いたボンベと塩梅の良い注ぎ方、泡立ちと肌理、炭酸の強さ、(器としてのジョッキなるものが美味しいビールを飲むのに最適であるかという問題も有る)・・・・・・それらの諸条件があいまって美味しい生ビールが味わえるのだが、そのような店はごくごく限られる。いい加減な生ビールに当たるより、品質にバラツキの少ない、自分で注ぐことの出来るラガービールを飲んだほうが美味しいと思うことは多い。小生はほとんどの店で生ビールを頼むことはない。

いささか脱線しすぎたが、その「生」絶対男は、生で音楽を聴く環境を語ることなく「生」絶対主義であるからそれには小生もいささか閉口してしまった。コンサートホールや聞く位置により、音は激しく変化する。満席の場合とそうでない場合においてさえ違ってくる。
だから、どこどこのホールは2階席のどこで聞くのが一番だとか、そういう話も出てくる。

「生」と「録音・再生」の問題はいつもとても厄介である。

しかし一つの見方としてこのように考えることは出来ないだろうか。ある時代までは、音楽の録音⇔再生はオリジナル(これでさえ問題あるのだが)に忠実になされるものである。・・・・という考え方があったのだろう。しかし「クラシックではカルーショウ」がJ「AZZではヴァンゲルダー」がその概念を壊してしまった。彼らの録音したものと、いわゆる「生」とは全く音が違う。しかし再生装置で聴くと其れは立派に音楽になっていて、ブルーノートのJAZZを聴けば、大いにその「生々しさ」を感じることが出来る。ブルーノートの1950年代のピアノの録音が素晴らしいのも、「ヴァンゲルダー」が自身のイメージするJAZZを録音したからであり、客席で聞こえるJAZZを録音したものではないことによる。(彼はピアノの音響版にマイクを突っ込んで、録音したという)
何時からか録音そのものが「録音技術」~「録音芸術」になろうとしたことにわれわれは気づく必要があるだろう。
<デジタル時代になってからは、別の問題が発生して入るが>
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小生が推挙した「山本剛トリオ」のピアノの録音は、「ブルーノート」のプロデューサー・録音技師でもあった、「ヴァンゲルダー」の録音を現代の技術でよみがえらせたような録音で、アナログLPながらスタインウエイ・フルコンの低音の豊かさと高音部のギヤマンをはじくような音がオンマイクで見事に録音されている。
どうやら「生絶対主義」と「HIFI]賞賛はすでに破局していると考えていいのだと思う。

冒頭の小津の言葉「人間の目」を「人間の耳」、に「キャメラ」を「マイク」に置き代えると、本物の(ヴァーチャル・リアリスティックな)「音楽」が見えてくるかもしれない。

by noanoa1970 | 2005-08-20 07:21 | 小津安二郎 | Comments(1)

Commented by ラビット at 2007-03-12 21:37 x
私は録音、録画の再生派です。生の醍醐味は認めますが一度観たり聴いたりしただけでは本当の良さが分かりません。クラシックも初めて聴く曲は当然のこと、よく聴いているものでも演奏の良さまでは伝わりません。
小津映画はDVDが初めてですがBOX第一集を3回観て好きになりました。2回目は似たような内容にマンネリな気分でしたが、それも慣れた後「これは本物だ」と感じられました。
一度観て面白い映画はだいたい3回観ると飽きますね。小津のDVDは全て5回観ましたがサイレントがやっと面白くなって来ました。