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小津映画の「反復そしてリズム」・・・「ラヴェル」の「ボレロ」を想起して

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「そうかね」「そうですわ」
「やっぱりそうかね」「やっぱりそうですわ」
「いいよ、いいんだ、いいんだよ」
「やめちゃえ、やめちゃえ」
「よしちゃえ、よしちゃえ」
「ちいせぇんだ、ふとってんだ、かわいいいんだ」
「そうよ、そうなのよ」
「凄いな、凄い凄い」
「そうかね、そんなものかね」
「ふーむ、やっぱりそうかい」

小津映画のセリフでは、「反復=繰り返し」、また「鸚鵡返し」が数多く、しかも意識して使われているように思われる。
その理由としてのさまざまな解釈は多いが、真実は分からないままである。
「全て偉大なものは単純である」という格言もあるが、小津はそのようなことを意識して使ったわけではあるまいし、「単調であることが連続性を生む」などもどうも胡散臭い。

小生は、これは小津の「天性のリズム感のなせる業」であると考えている。
また小生はクラシック音楽の「ソナタ形式」の「提示部や再現部の繰り返し」と同じようなものを感じることがある。、
指揮者の中には、冗長度がありすぎるといって、この「繰り返し」を省く人ともいるが、小生は、「繰り返し」がある演奏が好きである。

なぜ「繰り返しが必要なのか」について小生はこのように考えた。それは、「ソナタ形式」が作曲法の重要な位置を占めた時代の演奏会は、「1回性」のものであり、同じ曲を繰り返して、其れも多くの演奏会が行われたわけでなく、ほとんど、その場限りのつまり、現代のような「再生音楽」などなかったのだから、曲の主眼とするところを「繰り返し」「強調」することによって、観衆に印象付け、其れを「評価」に結び付けようとした。・・・・「新作披露演奏会」等はその最たるものだったのだろう。純粋な音楽的な語法と平行しいて、「認知」「評価」してもらうための適切な形式・・・其れが、「ソナタ形式」の「繰り返し」なのであろう・・・と思うのだ。

繰り返す前の演奏と、繰り返し部分の演奏は、たいていの場合、表情を変えて演奏される。小生はその部分の違いにどうしてもこだわるのである。
同じような音を出していても、実は表現が異なる=変化している。だかそれは単純な「繰り返し」ではないのである。だからこそ聞き手をひきつけ印象付けるのだ。
小津の「繰り返し」・・・・・・そのようなことを感じルことが多い。

ミニマルミュージックというと現代のテクノポップスを連想するかも知れないが、その元祖はラヴェルの「ボレロ」にあると小生は思っている。
そしてその背景の一つには、「アール・ヌーヴォー」から「アール・デコへ」と移り変わっていく手工芸の流れと同質のものがあるのではないかと。
「単純」「連続性」「繰り返し」=「反復」そして重要な「リズム」・・・小津の映画には、アール・デコ芸術に通じるものがあるように思っている。音楽で言えば、「ラヴェル」の「ボレロ」である。
たった1回の転調で終わりを告げる「ボレロ」であるが、小津の映画は転調が多い。
しかしいつも必ず同じ調性に戻る安心感がある。(初期の1部の作品は別であるが)
上の写真は、重役に連れられてしぶしぶ「バー・ルナ」で、いつもは「トリス?」を飲むサラリーマンに、(重役と来たときには高級な酒を飲んでいたので)半分から買い気分で、無粋にもバーテンが「近藤さん何ににします?」と聞いて、サラリーマンが答えるシーンである。
(サラリーマンは憮然として、そんな高い酒が飲めるものか)・・・「いつもの、普通の、国産の、安いの!」そして
(おいケチケチするな、)・・・「南京豆!南京豆!」このセリフのリズムとテンポのキレにはいつも「音楽」・・・ベートーヴェンの7番交響曲の終楽章をを連想してしまう。

反復の効果とずれ(=表情の変化の効果、)こうしたものが形を通じて見事に伝わってくる。」
と、どなたかが・・・( )内筆者・・・小津の作品を通じて語っているが、
これこそまさしく小津映画の本質の一つを表しているし、また「ラヴェル」の「ボレロ」の本質でもある。

by noanoa1970 | 2005-08-07 09:05 | 小津安二郎 | Comments(1)

Commented by Schweizer_Musik at 2005-10-10 06:53
はじめまして!
ボレロのたった一回のコーダでの転調ですが、行ったと思ったらすぐに戻る、詐欺みたいな転調ですね。しかしなんとも効果的で・・・。
初演の時ずっとハ長調が続くのに作曲家のロラン・マニュエルがとまどい、ホールから出てオペラ座の廊下をウロウロしていたそうです。どうしたのかと聞かれて「転調するのを待っているのだ」と答えたとか・・・。
ラヴェルのボレロをちょっと分析してみました。時間のある時にでも一度お立ち寄り下さいませ。TBをしたかったのですが、どうもうまくいきませんでした・・・(泣)