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シゲティのブラームス・・・妄想

昨日聴いたメンゲス盤に引き続き、今朝はシゲティのもうひとつの演奏、オーマンディ/フィラデルフィア管との1945年録音を聴くことにした。

狙いは昨日の晩年の67歳の演奏、それより15年若い52歳の演奏を聴くことによって、その変化の軌跡を掴もうとしたことにある。

聴いてみると、表現方法に大きな違いはないようだが、指の圧力(運指の力)が衰えてない絶好調期の録音だけに、メンゲス盤の時に比べて弓圧を強めて弾いてないようで、その結果なのか、ヴァイオリンの音色は、こちらのオーマンディ盤のほうが柔らかいがしかし流麗ではない。

メンゲス盤のシゲティの特徴でもあるヴァイオリンのかすれた音は、ブルーグラスのフィドル奏者がよくやる、顎に載せて弾くのではなく、胸に当てて引いた時の音に似ていて、多分ヴァイオリンの古い奏法であると思うが、シゲティの音色は大昔の胸に当てての弾き方が、歌いながら弾くためであったように、人間の声とヴァイオリンの親密な関係性を強く思わせるものである。

人間の声による歌があるから、ヴァイオリンは歌う必要もないし、ヴィブラートは胸に当てたヴァイオリンでは掛けることができないし、指圧があまりかけられないから、弓で弦を強くこすったりアタック気味に弾いたりする奏法ができたのだと思うが、シゲティの演奏は、そういった古くからヴァイオリンを使う民族の伝統奏法からヒントを得たのではないかと推測させるような所がある。

それに加え、シゲティは若い頃、何故かサーカスで働いていたという。
サーカスは、ジプシーなどの古典的芸能民族が、働いていたと想像され、つきものの音楽は彼らの伝統的な音楽で、異国の音楽の例えばジプシーのヴァイオリン奏法を密かに学んでいたとも考えられ、ヴァイオリンの教科書的弾き方から、卒業する素地がすでに合ったとも考えられる。

アメリカに渡り、アパラチア山脈の麓に定住した、ヨーロッパからの移民、特にアイルランド系やスコットランド系の音楽がブルーグラスとなって、アメリカ音楽のジャンルを形成したが、そうしたブルーグラスのフィドル奏法の影響をシゲティは受けたのかも知れないという、妄想まで湧いてきてしまった。

オーマンディ盤では、シゲティは少し早めのインテンポで通しているが、シゲティにしては珍しく、メンゲス盤には見られなかった、ちいさなルバートや細かいリズム変化がみられる。

ヴァイオリンの音色は、指圧が十分かかっているらしく、メンデス盤に比べると数段柔らかく聴こえる。

しかし反面、これがシゲティである、という特徴は、メンゲス盤に比べ少ないように思う。

オーマンディは、なんでも屋というイメージガ強かったが、最近は見直されてきた指揮者の一人で、伴奏指揮にとてつもなく優れているところを、小生は評価している。

ラフマニノフの3番を、作者ラフマニノフのピアノで初演した時のバックを務めた指揮であり、数々の有名ソロイストたちと共演して、素晴らしい音楽を提供したにもかかわらず、ポピュラークラシック音楽の第一人者というレッテルは、売らんがためのレコード発売による所が大きいのだと思う。

オーマンディ盤は総合的に素晴らしいが、数ある優秀な演奏の1つとなってしまった感がある。
メンゲス盤は、瑕疵が無いわけではないが、聴いてすぐにシゲティだと分かる特徴を備え、独特のヴァイオリンの音色は、好事者には答えられないであろう魅力を持っていて、特にブラームスにはよく合っていると思う。

小生は、メンゲス盤のシゲティのヴァイオリンを聴いて、うらぶれたジプシーの長老が奏でるヴァイオリンの音色を想起した。

by noanoa1970 | 2011-06-11 09:24 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(5)

Commented by HABABI at 2011-06-12 09:10 x
おはようございます。

何故か急に地元のスーパーで鶏の「せせり」を売り始め、早速買い求めて焼き鳥にしました。あまり沢山売れていないので、いずれ店頭から消えてしまうかも知れませんが、売っている間は買って来ようと思います。焼き鳥にするのに丁度いいです。ちなみに、味付けは塩と胡椒です。

さて、我が家には、シゲティの録音はプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ2曲(ステレオ)とバルトークの幾つかの室内楽曲だけがあります(モノラル、ピアノはバルトーク自身)。奏者が気持ちを込めて大きく歌うのではなく、曲そのもののメロディがしっかりと伝わって来る、まるで教師が曲の説明をしながら自ら弾いているような印象があります。プロコフィエフのソナタ(第1番)から哀しみの表情が聴きとれたように思います。ただ、シゲティの弾き方ですと、全体として、表情が暗い方に傾くように思います。同第2番は、明るく歌うことも曲が求めているように感ずるで、ここではシゲティの演奏は少しアンマッチングだったように思います。
Commented by noanoa1970 at 2011-06-12 17:23
HABABIさん、おばんです。
「セセリ」焼き鳥にしましたか。串に刺しやすいので準備がラクですね。塩コショウが一番合っていると、小生も思います。足が早いので買い置きには少し注意したほうがいいと思います。冷凍もいいですが、専門店以外の販売店では、一旦凍ったものを解凍して売りますから、冷凍解凍を繰り返すと味が落ちます。継続して売ってくれるといいですね。

>シゲティの弾き方ですと、全体として、表情が暗い方に傾くように思います
プロコのヴァイオリン・ソナタ第2番はプロコからシゲティに献呈された作品ですから、曲想についてのやりとりが有ったのだと考えて良いと思います。
シゲティは同時代の作曲家との深い交流があり、ブロッホやブゾーニ、プロコなどが挙げられます。
作品についての話を作者とすることも多かったようです。2番のソナタに明るさを求めることは悪く有りませんが、多分シゲティは十分練って作者の意図を限りなく表現したのだと思いますから、これはこれでひとつの演奏スタイルではないでしょうか。
パールマンのような表現もありますが、好みの問題ですね。
Commented by Abend at 2011-06-12 19:30 x
sawyer様、こんばんは。
梅雨の時期は、足腰が痛みます。STAXのイヤー・スピーカーも、何となく頭に重く感じられるような。

シゲティについては認識が浅いのですが、オーマンディとのブラームスの生々しい録音を聴きますと、ボーイングは大きくなく、しかし運指はかなりの圧力で一音一音進めていると思われます。ミルシテインのように、シルクの上を滑るような音とは対極の、金属を一音一音擦る感じです。上手くは言えないのですが、響くチェンバロのような。
面白いのは、オーマンディもヴァイオリニスト出身で、シゲティと同じフーバイ門下ということですね。
Commented by noanoa1970 at 2011-06-12 22:13
Abendさま、こんばんは
梅雨時は体に傷が残っていると、疼きますね。辛いですがなんとか凌いでください。
小生はよく夜中に足がつる用になります。
普通のヘッドフォンでは頭が痛くなりますが、やや重さはありますが、その点STAXならば、そんなこともないでしょう。小生、SR-1時代からの愛用者でもあります。取り扱いにくいのですが、CDウォークマンにも小型のSTAXイヤーSPを使用していますが、中々のものです。

>金属を一音一音擦る感じです。
そうですね。晩年のメンゲス盤を聞くとさらにそれが言えると思います。ドラティがバックのベートーヴェンもいいです。
しかし両方共現在廃盤とのことで、何故にこのような素晴らしい音盤が廃盤になってしまうのか、シゲティの音楽が誤解されているからなのでしょうか。

Commented by noanoa1970 at 2011-06-12 22:13
>オーマンディもヴァイオリニスト出身で、シゲティと同じフーバイ門下

そうでしたか。フーバイ門下ということは、ブラームスを初演したヨアヒムの系列といえますね。
そして2人共にハンガリー人ですね。そういう意味でも気が合っていたのではないでしょうか。音楽院とゲヴァントハウス管にも在籍したヨアヒムの系列と言えますから、シゲティのヴィブラートを掛けないザハリッヒな奏法は、ライプツィッヒ音楽院系統のものかもしれません。そしてゲヴァントハウス管も、その伝統を守っているのだと思います。