et homo factus est

ベートーヴェンの最高傑作とも言われることの多い、「荘厳ミサ曲」。

太宰治の「桜桃忌」だからというわけではないが、朝から聴くには相応しくないこの大曲を聞いた。

この曲、ただ漫然と聞くような曲ではないことは、百も承知だが、緊張を強いられるからどうしても疲れることがある。

しかし本日は「Credo」までを緊張感を持って聞くことができた。

この曲の・・・多分聴きどころの一番は「Credo」である、小生はそう思っている。

通常「信仰告白」あるいは「信仰宣言」と訳される典礼文によるこの個所は、父と子と聖霊・・・すなわちキリスト教で特に大切な、「三位一体」、全能の父で神であるキリエと神の子クリステ(イエスキリスト)が聖霊によってマリアから生まれたこと。

人民の犠牲になり、そして復活したこと。

父と子と聖霊の礼拝をつかさどり、贖罪を許す唯一の教会を信じ死者の復活と
来世のいのちを待ち望む。
アーメン。

ざっと、以上のようなくだりであるが、小生は中で最も注目すべき・・・(ベートーヴェン理解においても、その演奏の評価においても)として、以下の個所がそれに相当するのではないかと強く思っている。

それがブログタイトル「et homo factus est」・・・「そして、人となりたまえり」。

神が聖霊とマリアによってイエスを作り、そしてイエスキリストが「人」になるという、このくだりは、ベートーヴェンの「人類愛」の観念にも通じるところ、すなわち恐らくベートーベンが一番重要視したところではないだろうか。

もちろん、力強い「Credo」の繰り返し、そしてそれがフーガ的展開を見せる「Credo」全般がそうであるともいえるが、中でも特にこの個所は注目だ。 

Et incarnatus est de Spiritu Sancto
ex Maria Virgine,et homo factus est.
聖霊によって、おとめマリアより
からだを受け、人となりたまえり

ベートーベンは、この前の個所・・・Qui propter nos homines,
et propter nostram salutem,
descendit de caelis・・・主は、わたしたち人類のため、わたしたちの救いのために
天からくだり・・・と、かなり激しくダイナミックに、天から下るところは下降する音型によってあらわす。

そして「人となる」ところになるのだが、その時テナーによって歌われる明るく、そしてものすごく優く、時には神秘的にも聞こえるような音楽を巧みに・・転調によって表現する。

教会や父と子と聖霊への信仰告白あるいは宣言という宗教的なこと以上に、ベートーベンが、「神が人となる」という、キリスト教にとっては革命的なそのことに、激しい共感を抱いたのではないだろうか。

大胆に言えば、ベートーヴェンにおける「脱キリスト教」宣言のようにも聞こえてくる。

et=そしてを2回繰り返すことにより、そして、そして(ついにベートーヴェン自身が、待ち望んでいたように)、神が人となって、そうなることで本当の人類への救いがかなえられるのだ・・・という希望と
喜びが込められているのではないか。

したがって、「Credo」の、そしてこの部分の解釈が、小生の「荘厳ミサ曲」演奏におけるチェックポイントとなる。

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演奏の印象はものすごく異なるが、終始客観的で、冷たい演奏に聞こえるが、この部分をかなり強調するカラヤン盤。
特にカラヤン盤の独唱者は素晴らしいし、シュライヤーの「人となりたまえり」は、聴きものだ。
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団&ウィーン楽友協会合唱団
ヤノヴィッツ/ルードヴィッヒ/シュライヤー/ベリー
1974


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そして出てくる音にすべて愛情がこもっていて暖かい、そしてそれぞれの章を対比させるように、緩急の差を激しく演奏し、音魂のこもった「Credo」を聞かせてくれるコンヴィチュニー盤。
クララ エーベルス(S)、 ゲルハルト プレンツロー(A)
ウェルナー リービング(T)、 ルドルフ ワツケ(B)
ベルリン放送o.&cho.  Rec1956 Live(M)

以上の2つを聴いたのだが、カラヤン盤はアニュスデイ以下が残念ながら緊張感が崩れるようなところがあるが、やはり素晴らしい演奏の一つだろう。

コンヴィチュニー盤は、終始心地よい緊張感と安らぎのようなものをあたえてくれる演奏である。
だんだん音楽が良くなっていき、「Credo」以下、一気にコンヴィチュニーの本領が発揮されるように、音楽が生きてくる。
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by noanoa1970 | 2009-06-19 11:07 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)