フォルテピアノによるFür Elise

かって総統のピアニストとして、ヒットラーお抱えの女流ピアニスト「エリー・ナイ」という人がいた。

日本ではあまり知られてなかったようだが、おそらくそれは、彼女がナチス党員であったことが、大きな原因の一つであろう。

しかしながら最近、彼女の音楽性を再評価する動きとともに、少ないながらも彼女の復刻CDが発売されることとなったのは、特にベートーヴェン弾きとして、名前以上の実力を持つ彼女の音楽に触れることが可能となった事は大変喜ばしいことである。

小生もCD12枚からなる、コロッセウム発売のCD選集を聴くにおよび、彼女のベートーヴェン、シューベルト、ブラームス,そしてショパンの演奏を「音魂」の存在するピアニストであることを再確認した。

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80代という高齢時の録音にもかかわらず、出てくる音はまるで男性の、バックハウスやギレリスをも凌駕するような、しっかりして情熱にあふれたもので、比較するのも適当ではないが、わかりやすく、フジコヘミングウエイ、アルゲリッチ、内田光子などをも超えた存在のように思えた。

一言でいえば小生好みのピアノを弾くピアニストなのである。

ナチスに加担したり自らが党員であったとされる芸術家、音楽家は少なくはない。
しかし政治信条や思想と音楽性はいったん切り離して考えてあげるべきこと。

たとえ彼女がナチス党員の反ユダヤ主義者だったとしても、彼女のベートーヴェンの音楽とは関係がない・・・とみるべきであろう。

つまり音楽には音楽上の評価を与えてあげてしかるべきだということだ。

そんなことは分かっていると言いながら、小生も多分に、ほかの価値観でその音楽を評価してしまうところがないとはいえない。

しかしエリー・ナイにおいては、そんなものはどこかに消し飛んでしまい、純粋に彼女の音楽に埋没してしまうほど、彼女のピアノはものすごい力を持っている。

例えば、ベートーヴェンの後期のソナタを聴けば、それが事実だということをわかっていただけるはずである。

選集の中にフォルテピアノを使って録音されたものがあって、32番のソナタも収録されていて、これも大変素晴らしいのだが、本日は有名で誰もがご存じの「エリーゼのために」を聴いてみることにした。

この曲を録音で聴いたのは相当昔のこと、我が家に初めてステレオ装置が来たときに、ヴィクターが家庭向けに発売した25センチLP、「ワルター・ハウツィッヒ」というピアニストが弾いたものだった。

もちろんピアノは現代のピアノで、その当時はピアノの歴史などは全く知らなかったから、それが当たり前で、YAMAHAのアップライトも同じような音を出していたから、ピアノとはそういうものであると思っていた。

それからかなり時を経て、フォルテピアノという存在を知り、実際に自分でその音を確認できたのは、シューベルトのピアノソナタ全集を入手した時だったが、その時はその音色と抑揚のない強弱感を好きになれなかったのだった。

そして「エリーゼのために」という格好のピアノ小曲を、エリー・ナイという格好のベートーヴェン弾きが、それもフォルテピアノを使った録音に巡り合うことができ、ベートーヴェンが弾いた時とほぼ同じニュアンスで聴けることに興味を持って聴いた。

ベートーヴェンが使用していたピアノのうち、現存しているのは1803年エラール製、1817年ブロードウッド製、1825年グラーフ製の3台と言われている。
そして、このうちのグラーフ製のピアノを用いて、エリー・ナイはベートーヴェンを演奏したとされるから、なんと約185年前に作られたフォルテピアノ、しかもベートーヴェンが使っていたのと同じメーカーのピアノで演奏されたというのだから、それを聴く小生もベートーヴェンの時代にさかのぼれるような思いで聴けた。

音、音色は高域が出ないハープの親玉のようで、高域が伸びない代わりに低域は割と伸びて良く響くもの。

時にハープシコードのような音を響かせ、現代の・・・モダンピアノとはまったくことなる音だ。
そしてやはり強弱の幅が狭いので、ダイナミックな音量の変化は出ない。

しかし曲が曲だけに、(このCDには、フォルテピアノによる32番のソナタも収録されるが)「エリーゼのために」は、フォルテピアノが似合っているように思う。

次に収録されたパイジェッロの歌劇「水車屋の娘」からの二重唱
「わが心はうつろになりて」の主題による6つの変奏曲 WoO.70になると、フォルテピアノを変更しての録音だろうか、ベートーヴェンの時とは音色が異なるようだ。

もう少し音同士の切れが良く、モダンピアノにより近いように思う。
そしてハープのような感じもあまりしなく、高域低域もさらに伸びていて音のダイナミズムがよくわかる。

ブリリアント発売のシューベルトソナタ全集でのフォルテピアノには少しがっかりしたが、エリー・ナイ選集のそれは、そんなに悪くない。

仕様楽器によってかなり差が出るのかもしれない。

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by noanoa1970 | 2009-02-18 17:19 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)