さまよえるオランダ人

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
 マリアンネ・シェッヒヒ(S)
 フリッツ・ヴンダーリヒ(T)
 ゴットロープ・フリック(Bs)
 ルドルフ・ショック(T)
 ジークリンデ・ヴァーグナー(Ms)
 ベルリン国立歌劇場管弦楽団&同合唱団
 フランツ・コンヴィチュニー(指揮)
 録音:1960年ステレオ

舵取り役のヴンダーリッヒが、少ししか活躍しないのが残念なほど、特に素晴らしい。
コンヴィチュニーが指揮をしたオペラを、長年小生は好んで聴いているが、去年入手したホルスト・シュタイン/スイスロマンド管の盤LDをようやく見ることができた。

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演出: ジャン・クロード・リベール
ホルスト・シュタイン指揮
スイスロマンド管弦楽団
ジュネーヴ歌劇場合唱団
マリア・スラティナル(S)
ローベルト・シュンク(T)
ライフ・ローア/カール・リッダーブッシュ(Bs)
装置・衣裳: ピエール・ルイジ・ピッツィ

ストーリーとしては単純であまり面白みのないもので、通常「女性の愛による救済」がその底辺にあるとされる。

神を冒涜したオランダ船の船長が神の天罰を受けることから救われることを「救済」といい、永遠の(苦悩の)命から、人間らしく寿命を迎えることができる日が来ることを「救済」とする。
そして「救済」が可能なのは、一人の女性による献身的な「愛」であるとする、フェミニストが聞いたら怒り出しそうな男権社会の物語の背景には、カルヴァン主義思想の影響がみられるようでもある。

女性は男性に奉仕することがあらかじめ決まっている・・・そんな予定説めいたものが見えるようだ。

映像で見たら何か面白いものが見えてくるような気がしたが、残念ながら結果はそうではなく、どのような演出家の手になっても、恐らく限界点があるオペラなんではないかと思ってしまうようなところが多かったのだ。

そもそもその欠陥ともいうべき・・・オリジナルの「幽霊線伝説」に「女性による救済」などという異質のものを無理やり組み合わせたところに問題があるのではないだろうか。

オランダ人「救済」が、女性の純潔や誠によってだけ行われ、しかもそれが成就した暁には両者ともに「死」を迎えることになるなどという話は、宗教的な地点からも、怪奇伝説としてもあまり面白くはない。

神を冒涜したので罪を背負わされたオランダ人、彼はそもそも自分たちの航海技術の優れたところを持って、激しく荒れ狂う海に挑戦したのだから、それで罪を背負わせられたのなら、再度荒れ狂う海の神にリベンジすればよかったし、そのほうがストーリー的には面白かったのだと小生は思う。

ワーグナーがたぶん大いに参考にしたと思われる、オリジナル伝説を脚色したハインリッヒ・ハイネそしてニーチェへと続く文化的「反キリスト教」的な視点は、「オランダ人」に関しては全くと言って無い。

したがってのちの作品に顕著な、ゲルマン神話、ギリシャローマ神話、それらを生み出した古代の・・・キリスト教徒にとって代わられた民族文化のほうぎょうな時代へのロマンチシズム的な懐古趣味は一切ない。

どうやらこのオペラは、ストーリーよりも純粋に音楽自体を楽しむべきものかもしれない。

そういう意味では音楽だけを聞いてもオペラを見ても、心の動かされ方はほかのものと比べてそう大きな差がないのである。

小生はホルスト・シュタインのオペラを見た後すぐに、コンヴィチュニー盤のCDを聞いたほどであった。

後期のオペラほどワーグナーワーグナーするところが少なく、むしろロッシーニやウエーバーのようなところを感じるところがたくさんある。

多分それは力強い男声合唱のなせる業であると思うのだが、女声合唱もなかなかのもので、民謡のような「紬歌」のところなどはさすがであるし、ノルウエー船団乗組員とオランダ幽霊船員との陽陰のあるコーラスは特にすごいものだ。

幽霊船が登場し再び海に沈没するところの、一瞬の全休止はさすがである。

オペラでよかったのは船乗りたちの酔っ払いながら歌い踊る合唱のシーン。
床を踏み鳴らすドンドンという音のリズムが、オケに合わせて迫力満点で印象的、しかしCDには、当然のようにこの音は入ってはいない。

ワーグナーのオペラでは珍しく音と映像の差があまりないオペラだから、…というより逆にいえば、このオペラはCDなどで聞いても相当に良いといえるものであろう。
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by noanoa1970 | 2009-01-07 15:41 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)