若き国王の愛したオペラ

年末最後あたりに見よういと思っていた「ニーベルングの指輪」をクリスマス前に見終えてしまい、2008年最後の日に何を?と考えて、「ローエングリン」を見ることにした。

このオペラは、若きバイエルン王ルートビッヒ2世が愛してやまなかったオペラであるとされていて、彼は自分の城に「ノイシュヴァンシュタイン」・・・つまり「新白鳥城」とでも呼ぶべき名前を付けたほどである。

ローエングリンは聖杯を守る騎士長「パルジファル」の子どもであり、白鳥の騎士であることもあって、オペラでは白鳥の曳く小舟に乗ってモンサルヴァートから、ローエングリンがやってくる。

このオペラは宗教戦争としても読めるものがあり、ゲルマンの神が象徴する多神教を信仰する東方土着の民族と、キリスト教によって改宗させられた東方周辺民族の争いのようなものが描かれ、ローエングリンはキリスト教の救世主的存在のようにも描かれていて、「改宗こそが幸せの原点」という言葉がエルザによって告げられる。

オルトランドがゲルマンの神ヴォータン、フライアに復讐の籠を祈るシーンなど、キリスト教と非キリスト教の対立が随所にみられ、興味は尽きない。

以前ブログでこのあたりのことを書いたことがあったが、さらに奥行きのあることなど、今回新たに分かったことをいずれ書き足してみようと思っているところ。

「ルートビッヒ2世」についても、かなりの興味がわくところだから、折にふれこちらにも言及したいところである。
伝統と歴史・・背負うもののあまりにもの大きさに、時に頽廃的にならざるを得なかったであろうことは、なんとなく想像に難くはない。

それにしても彼のような絶対的趣味人は、この世の他に存在するのだろうかと思うほどの徹底ぶりは、呆れるのを通り越して身震いするほどの狂気すら感じることになろう。

金管楽器がさく裂し、男声合唱が活躍する、キリスト教下のドイツ国家の安泰と、父権の強力さをこれでもかとばかり見せつけるオペラでもあるから、若き国王がその虜になったのもうなずけよう。

オペラからの頽廃的要素は微塵もないが、ルートビッヒは一体どこに向かおうとしていたのだろうか。

ゲルマン神話と騎士伝説が現実逃避の源となったのだろうか。
いや、多分彼は正常な人間の精神を宿していて、それを否定することができなかった永遠の少年であったのではなかろうか。

架空の世界に身を浸している時だけが、幸せであったのかもしれない。

そのような推測をさせる十分条件的演奏として、レヴァイン/メトロポリタンの演奏はその一つであるといえそうだ。

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レヴァインのオペラは「指輪」でもそうであったが、オケのダイナミズムを極限にまで出し切ったもの。

歌手陣も非常にバランスが良く秀逸で、一気に見ても飽きることがなかった。
物量にかなりお金をかけた演出も、厭味のないものに仕上がっていて、非常に好感が持てるものと小生は思っている。

・ワーグナー:歌劇『ローエングリン』全曲

 ペーター・ホフマン(T:ローエングリン)
 エヴァ・マルトン(S:エルザ)
 レオニー・リザネク(S:オルトルート)
 レイフ・ロール(Br:テルラムント)
 ジョン・マカーディ(Br:国王ハインリヒ)
 アンソニー・ラッフェル(Br:軍令使)、他

 メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
 ジェイムズ・レヴァイン(指揮)

 演出:アウグスト・エファーディング
 美術:ミン・チョウ・リー
 衣装:ピーター・J・ホール
 映像監督:ブライアン・ラージ

 収録:1986年1月10日 メトロポリタン歌劇場

「ローエングリン」で今年を締めくくったが、来年は「オランダ人」からスタートしようか。
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by noanoa1970 | 2008-12-31 18:40 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)