遺作

先日亡くなった緒形拳 が出演したおそらく最後の作品が、倉本聰のドラマ「風のガーデン」であろう。

緒形拳の死因は肝臓癌だったと聞いているが、撮影中にかなりの体調悪化があったと思われる。

ドラマを見ていても、痩せ細った緒形拳の姿から、体調はあまりよろしくなかったことが分かろうというものだ。

緒形拳はおそらく近い将来の自らの死を覚悟の上で撮影に臨んでいたに違いない。
病状悪化を誰にも告げることなく、ドラマ撮影を通したことに敬意を表するものである。

皮肉なことに、このドラマに登場する富良野のガーデンで生活する緒形拳扮する父親の老医、そして親に勘当され故郷を出た息子も、大学病院の麻酔科医として働き、いずれもが緩和医療従事者という立場であるが、息子は膵臓癌の末期症状で余命いくばくもないという設定である。

このような設定下のドラマで、現実にかなり重症の肝臓癌を持ちながら、病状を隠し通し、苦難に耐え抜いての撮影は、緒形拳にどのような重圧と試練を与えたのか想像もつかないことである。

話は変わるが、ホルストの「惑星」の中、「ジュピター」で低弦が歌う非常に美しいメロディ部分に、日本語の歌詞をつけて歌った「平原綾香」という若手の女性歌手がいて、かってラジオでそれを聞いた小生は、その素晴らしい歌唱力に感激し、CDショップに行ってそのCDを入手したことがあった。

2曲入ったそのCDには、「蘇州夜曲」が収録されていて、こちらも素晴らしいものであった。

ドラマ「風のガーデン」にも、挿入歌として、ドラマにも出演している平原綾香が歌う曲があって、最初耳にしたときには気付かなかったが、やがて、それはショパンのノクターンの編曲らしき音楽のように思えた。

それで手持ちの中からCDですぐ聞けるものと、「サンソン・フランソワ」のノクターン全集を取り出して、確認するも該当の曲らしきものがない。

それで、もしやと思い、昔から愛聴している「フー・ツォン」という中国人のピアニストのLPで確認すると、20番嬰ハ短調「遺作」と呼ばれている曲と判明した。

これには思わず苦笑い。

なぜかというと、遺作と呼ばれる20番と21番のノクターンは、古い演奏家の録音には収録されてないことがあるからである。
ちなみにルービンシュテインの録音もそうであった。

なぜそういうことが起きたかといえば、その答えは「楽譜」にある。

19.20.21番のノクターンは「遺作」と呼ばれ、ショパンの死後発見されたもの。
したがって古い楽譜には当然のことながら18番までしか掲載されてないということだ。

ショパン存命中出版の18曲掲載は「ナショナル・エディション」。
21曲すべてが掲載されているのは、「ウィーン原典版」。
「パデレフスキ版」は20番と21番を除く19曲を掲載。

したがって19番まで録音されているサンソン・フランソワ盤は、パデレフスキ版の楽譜を使ったということになり、21番まで全て録音されているフー・ツォン盤は、ウィーン原典版を使ったと言うことになる。

ただし面白いことに、小生所有のフー・ツォン盤LPでは、20番21番が最初に収録され続いて1番から順に収録されている。(別冊掲載となっていた20番21番の遺作だからこのような配慮をしたのであろうか)

話がややずれてきたが、挿入歌が20番嬰ハ短調「遺作」の編曲というのは偶然だろうが、偶然にしては「遺作」は緒形拳の「遺作」と、妙なつながりを見せる。

「癌」と言い「遺作」といい、緒形拳最後の出演ドラマには何か因縁が存在しているようだ。

youtubeにはあまり良い演奏がなかったのが残念だが「戦場のピアニスト」のシュピルマンの演奏があったのでそれをどうぞ。
(お聞かせ出来ないのが残念だが、リリシズムあふれるフー・ツォンの演奏こそ素晴らしいもの、小生の最も好きな演奏だ)


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by noanoa1970 | 2008-11-07 15:14 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)