Purcell:Dioclesian suite

「予言者、またはダイオクリージャン」という歌劇がイギリスの作曲大家、ヘンリーパーセルにある。

といっても、小生はその歌劇の全貌は聞いたことがなく、その中の断片を組曲風に仕上げた表題の曲を聞いたのみだ。

イギリスは音楽不毛の地であったと音楽界ではよく言われることが多く、それはヘンリーパーセルからブリテンが出現する間の約200年のことを指すらしい。

しかしバッハやベートーヴェン、ブラームス、仏バロックの作曲家やロシア5人組のような大家や曲における華々しさはないものの、イギリスの作曲家たちは決してその才能が開花しなかったわけではない。

むしろ小生はそんな過小評価されやすいイギリスの(広い範囲の)作曲家たちの音楽を好むことが多い。

特に非アングロサクソン系統の作曲家のものには、日本人にもなじみやすい伝統歌をモチーフとした作品が多く、懐かしさと安堵感を味あわせてくれるものが多い。

しかしやはりイギリス音楽を語るとき、ヘンリーパーセルの存在は欠かせない。
小生は、パーセルの存在をブリテンによって知るところとなって、それは中学生時代に音楽の時間に聞いた「青少年のための管弦楽入門」が別名「パーセルの主題による変奏曲とフーガ」であることを知った時に始まる。

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そんなパーセルの楽曲を聞きたくなったが、おどろおどろしい「メアリー女王の葬送のための音楽」を、こんな清々しい朝から聞くわけにもいかず、取り出したのが入手して久しいが全部を聴くことができてないハルモニアムンディから発売となった、バロック全集の中から。

劇音楽「女予言者,またはダイオクリージャンの物語」
1 Argenta, Nancy - The Prophetess, Or The History Of
2 Ouvertuere
3 Dance - Lied: If Music Be The Food
4 Dance Of Bacchanals - Trumpet Tune
5 Prelude - Lied: Oh How Happy - Hornpipe
6 Dance Of The Furies
7 First Music
8 Duett: Lost Is My Quiet
9 Prelude - Lied: Let The Soldiers Rejoice - Spielst
10 Chaconne
11 Second Music - Paspe - Chair Dance
12 Argenta, Nancy - Concerto Grosso G-moll Op. 6 Nr.
13 1. Largo E Affettuoso
14 2. A Tempo Giusto
15 3. Musette - Larghetto
16 4. Allegro
17 5. Allegro
18 Argenta, Nancy - Il Duello Amoroso Hwv 82 (kantate
19 1. Sonate: Allegro Menuetto
20 2. Rezitativ: Amarilli Vezzosa

ナンシー・アージェンタ(Sp)、マイケル・チャンス(C-T) ゴットフリート・フォン・デル・ゴルツ(指揮&Vn)、フライブルク・バロック・オーケストラ

さて「ダイオクリージャン」とは、はたして何者か、また女預言者とは一体何者なのだろうか。

パーセル節が、そして美しい女性のソロが挿入される楽曲を聞くうちに、こんな疑問が頭をかすめた。

苦労して調べてみると「ダイオクリージャン」とは「ディオクレティアヌス」と同一人物であることが判明した。

「ディオクレティアヌス」とはGaius Aurelius Valerius Diocletianusというローマ帝国の皇帝(在位:284年 - 305年)で、軍人皇帝時代を収拾し、ドミナートゥス(専制君主制)を創始し、テトラルキア(四分割統治、四分治制)を導入したことで知られる人であった。

東と西にローマ帝国を分けて、それぞれに副帝(カエサル)」を任命、自分たちは正帝として、ローマ帝国を4つに分けて統治したとされる。

いわばパックスロマーナ時代のあとの混乱期の統治機構で、キリスト教に対する迫害が最も強かったとも言われる。

この劇音楽組曲には,ディオクレティアヌスが皇帝の座に上っていく様子が,そして彼の婚約者「女予言者」・・・(デルフィーの信託に関係があるかも)から、違う女性を愛するという愛憎劇の2つの側面があるようだ。

パーセルがこのローマの昔話をもとにした歌劇を作ったのは、名誉革命で英国の国王になったオラニエ公ヴィレム3世と女王メアリー2世への賛歌の意味を込めたからだといわれる。

パーセルはメアリー女王をとても崇拝しており、彼女に対する様々な楽曲を書き残している。

ちなみに
クイーン・メアリー(Queen Mary)は他に3人がほぼ同時代に存在する。

メアリー・オブ・ギーズ:スコットランド王ジェームズ5世の妃で女王メアリー・ステュアートの母
メアリー・ステュアート:スコットランド女王
メアリー・テューダー:フランス王ルイ12世の妃。本項のメアリー1世の叔母。
メアリー女王、メアリー1世に限っても2人、メアリー・テューダーに限っても2人が存在することになる。

このためパーセルが崇拝したというメアリー女王がどのメアリーか、断定することは容易ではない。

同じ祖父(チャールズ1世)を持ついとこ同士で、世にも珍しい “共同君臨” をした、俗にいう「オレンジ公ウィリアム3世」と「メアリー2世」がパーセルのメアリー女王である。

女王メアリー2世は1694年に天然痘で死亡し、その死を悲しんで作ったのがパーセルの「メアリー女王の葬送のための音楽」であろう。
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by noanoa1970 | 2008-10-19 11:31 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(2)

Commented by aosta at 2009-09-30 10:53 x
はじめまして。
ネット検索していてこちらにお邪魔いたしました。
私もパーセルが好きですので、興味深く拝見させていただきました。
「女予言者,またはダイオクリージャンの物語」についてはまだ一度も聴いたことが事がありませんでしたが、ドラマティックな曲のようですね。ハルモニアムンディのスペシャルセットを持っておりますが、まだ手をつけかねています。
収録されているようでしたら、早速聴いてみたいと思います。

「メアリー女王の葬送のための音楽」はおどろおどろしいでしょうか(笑)?私が知っているヘンゲルブロック指揮によるものは深い哀悼の念に満ちた美しい曲だと思うのですが・・・

音楽というのは、聴く人や状況、または背景を知っているかいないかによっても違った印象になるものですし、それが魅力でもだとも思います。ちなみに私はこの曲を朝聴くことも少なくありません。
夜来の雨も上がり、静かな霧が流れる今朝など、心静かに聴きたい曲のひとつです。
浅学にも関わらず勝手なことを書かせていただきました。
またお邪魔させていただこうと思います。
今日はこのあたりで失礼いたします。
Commented by noanoa1970 at 2009-09-30 16:18
訪問、コメントありがとうございます。
小生は取り分けてのバロック音楽ファンというわけではありませんが、時々パーセルを聞きたくなることがあります。インドの女王、妖精の女王、ディドなどの歌劇も流していることがあります。メリー女王はジャン=フランソワ・パイヤール(指揮) パイヤール室内管弦楽団のものを聞いております。太鼓の音が地の奥から響くようで実に恐ろしげです。