ハイドシェックのベートーヴェンを聴く

秋の夜長に聴く音楽としては、どうもベートーヴェンは相応しくないようで、小生がこの季節によく聴くのは、フルート以外の木管楽器の曲が多い。

なかでもやはり、オーボエ族の音は特別である。
アルビノーニ、マルチェロ、チマローザの協奏曲、あるいはイングリッシュホルン(コールアングレ)やファゴットを加えた作品を好んで聴くことが多い。

フィアラのコールアングレ協奏曲は、あまり耳にしない音楽であるが、これはとても美しい音楽だ。

しかし前日来さまざまなピアノ演奏家の作品を、耳になじんだ比較しやすいベートーベンのソナタのいくつかで聞いていて、少々食傷気味となっていた。

それで木管楽器の曲に移行する前に、少し毛色の違うベートーヴェンという印象が強かった演奏を聴くことにした。

この人の演奏は、ベートーヴェンをあまり感じさせない演奏で、あえて言うなら、シューベルトのピアノソナタを聞いているような感じさえすることがある。

ピアノの音も、おそらくベーゼンやスタインウエイとは思えない、瀟洒な音だ。

ワインはあまり詳しくない小生だが、少しばかりの経験から、あえて例えるとするなら、今までリースリング・アウスレーゼのようなピアノ演奏を主に聞いてきたのに比べ、この人のベートーヴェンは、まるで上質のシャンパンのような演奏であるといえよう。

・・・などとシャンパンに例えるのには、別の理由があって、この人=「エリック・ハイドシェック」というピアニストは、何を隠そう、有名なシャンパン製造元の御曹司でもあるのだ。

「エド・シーク」というと、ワイン愛好家、シャンパン愛好家の諸氏は、すぐに思い当たると思うが、「ハイドシェック」とは英語読み。
ドイツ語読みでは「ハイト・ジーク」フランス語では「エド・シーク」である。

アルフレッド・コルトーの愛弟子であり、ヴィルヘルム・ケンプから手ほどきを受けたといわれるから、フランスとドイツ両方のピアノ伝統教育で育った人ということになる。

しかし、コルトーも、ケンプにも小生には、育った国がらを超えた何か特別な音楽性を感じることがある。

どちらも、フランスのあるいはドイツ伝統のスタイルを超越したものがあるように思うことがあり、ハイドシェックの演奏はまさにそのような雰囲気を強く持つものだと思うところがある。

ハイドシェックのピアニズムを、シャンパン例えるのはベタ過ぎではあるが、グラスに注がれたとき、フツフツと湧き上がってくる、爽やかさに潜むきら星のように輝く「泡」のような、ピアノの音とともに、自己主張をトコトン抑えたところから来るのか、大袈裟な手の動きが全く感じられない、素直で外連味のない演奏だ。

「エド・シーク」の」シャンパンは、味わったことなどないのだが、ハイドシェックの演奏と少なからず関係性があるように想像することは、楽しい空想だ。

ハイドシェックの家系である高級シャンパンの蔵元「シャルル・エドシーク」の関連に「パイパー・エドシーク」があり、ここのシャンパンは、比較的容易に入手できるという。

中でもパイパー・エドシーク、1990年ビンテージシャンパンの素晴らしさは、味わった人による以下のような記述に表れている。


「期待を膨らませ抜栓してみました。グラスに注ぐと想像通り強い黄金色で深い黄色身に支配されています。香り?完全に熟成した複雑なブーケが爆発!ブリオッシュ、モカの香り全開で完熟した葡萄が熟成された時に強く表れる蜂蜜の香りもいっぱい。一口含むとそこはパイパーの世界というよりもビンテージ90年の世界。

こんな香りと味に出会うと幸せ感いっぱいになってしまう。90年特有のリッチさ、肉厚なオイリーな舌触り、リッチでありながら良質な酸にも恵まれ後味には甘味がスーっと消えていく素晴らしさ。余韻に残るシガーやタバコの香りも極上を感じさせる。」


どうもこういう表現では、わかりずらいので、実際に味わってみたいと思うのだが、「素晴らしい」と言っていることは確かであろう。

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CHAMPAGNE PIPER HEIDSIECK BRUT MILLESIME 1990, REIMS
容量:750ml 価格:¥12,800

と紹介されているから、そんなに高額でもない。
少し無理をすれば、何とか手が届く範囲だ。

「ハイドシェック」を聞きながら「パイパー・エドシーク」を味わう・・・・こんな贅沢は、これからの秋の夜長の一夜には許されてもよいだろう。

月の光が窓から差し込めば、気分は最高ではないか。

曲は変わり、17番「テンペスト」が流れている。
出だしの分散音が、他の演奏と比べ全く重々しくない。
低音部も、タッチのせいか、ピアノそのものの音のせいなのか、決して重苦しく響くことはない。

独特のシンコペーション、アッチェレランドが随所にちりばめられ、これはまさにシャンペンの「泡」が立ち上るようだ。

チョイ聞きするとつまらない演奏に思うかもしれないが、何度も聞くうちに、それはとんでもない誤解であることを、思い知らされる演奏だ。

気品あるユーモアとウイットに溢れた演奏といえるのだと思う。

ピアノの正体はわからないが、スタインウエイでは絶対にない・・・と思う。
どうも小生、スタインウエイのピアノの音があまり好みではないらしい。


・・・ということに、最近気がついた。

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by noanoa1970 | 2008-09-09 10:04 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(2)

Commented by こぶちゃん at 2008-09-09 11:53 x
まさか、ピアニストのハイドシェックが有名シャンパン・ブティックの一族だったとは…
知りませんでした。
それならシャンパンを飲みながら、彼の演奏を聴くのは極めてお洒落で良いですね。
私もやってみよう…あッ、我家にはハイドシェックは一枚も無かった…(爆)。

シャンパンのエドシェックでは、シャルルは有名ですが、ピペもJAL国際線の機内エグゼクティブ
クラス以上で提供されているようですね(パイパーでは豪州英語読みかも?=笑)。

http://www.jal.co.jp/inflight/inter/executive/c_meal/beverages/04.html

ハイドシェックのピアノは、スタインウェイじゃない…とするとグロトリアンやプレイエルかも
しれませんね。
ファッツオーリだったりして…(笑)
Commented by noanoa1970 at 2008-09-09 14:29
ワイン通のこぶちゃんさん
ピペ(仏語ではこの読み方になるようですね)エドシーク見つけて飲んで、感想を是非お聞かせください。お江戸なら見つけやすいのではないかと思います。