作曲家の憂鬱:「ちりとてちん」のテーマ音楽をめぐって

夏は7時30分、冬になると8時15分、小生の家ではMHKの朝ドラマのスイッチが入る。
家内はTVの前ではなく、ひたすら家事をしながら、音だけを聞く。
本格的にTVで朝ドラマを見るのはお昼の再放送になる。

小生は見るとはなしに観ることになるのだが、今やっているのが「ちりとてちん」という女性落語家の回想録。

小生が凄く気になるのは、このドラマの中身ではなく、実は、冒頭に流れてくるわずか数分のテーマ音楽である。

ここ最近、TVのCMに使われるクラシック音楽の、恐らくNo1の座を占めるのは、ヴェルレク、カルミナ、ベートーヴェンの有名曲のほか、どうも仏近代音楽のラヴェルの「ボレロ」のように思える。
そして、このことはここ十数年変わってないようだ。

「ボレロ」というと、小生の時代には、小中学校の音楽の時間に教えられるのは、ドビュッシー=月の光&牧神の午後、ベルガマスクであり、そしてなぜか、ラヴェル=「ボレロ」オンリーだった。

学校教育でも、そしてCMに使われる曲としても、耳に刷り込まれてきた「ボレロ」のリズムと単純なメロディは、全曲をいまだに聴いたことが無い諸氏にも記憶に残っていることであろう。

映画やTVでおなじみとなった「踊る大走査線」の中でも、ボレロの第2メロディが、上手く編曲されて挿入されていることは、前のブログ「335.2」でも書いたとおりだ。

「ちりとてちん」のテーマ音楽は、ラヴェルの「ボレロ」のアレンジであると断定せざるを得ないところがあり、それはリズムが「ボレロ」というだけではなく、音型といい、展開といい、メロディが単純であるが故の、1音の使いこなし方まで・・・すなわち何から何までソックリ、瓜二つ、一卵性双生児のようである。

このテーマ音楽は、佐橋俊彦という作曲家の手になるものだそうで、彼は映画、テレビドラマ、アニメーション、特撮、ミュージカルなどの音楽や主題歌・挿入歌の作曲や編曲を手がけ、特に「ガンダム」シリーズの作曲を手がけていて、2005年:JASRAC賞(「ガンダムSEED BGM」作曲者として)銅賞受賞をしたという。

芸大作曲科出身の彼が、クラシック音楽にも精通していて、当然仏近代音楽にも明るく、ラヴェルの数々の音楽から音楽語法を学んでいたことは容易に推測可能だし、影響を受けていたとしても、それは至極当然のことで、ラヴェルの作曲技法を真似て・・・あるいはそこからヒントを獲て作曲したというなら、まだしも、ここまでやられると、小生は、最近の作曲傾向の象徴を見たような気がして、非常に気分が悪くなるのである。(以前「千の風になって」で、このことを書いた)

このテーマ音楽は殆ど毎日耳にするが、どう聞いてみてもその音楽からは、作者オリジナルが聞こえてこない。

逆に言うと以下のような推理さえ働いてしまうのである。

義務教育で学び、一部にしろ鑑賞の時間を取ったであろう、よって多くの義務教育の生徒がかって耳にしたであろう、そして昨今CMで刷り込まれることになるラヴェルの「ボレロ」のリズムとメロディは、意識するにせよしないにせよ、殆ど万人の耳のそこに、こびりつく音楽である。

その・・・音楽的トラウマ体験を、商的な意図の(音楽)手法によって、意図的、恣意的に「売れる、ヒットする、了解される」ことを狙っての作りこみという、いやらしさが見え隠れする。

オリジナルのラヴェルの音楽が優れているだけに、亜流のテーマ音楽は決して悪いものではないが、音楽の向こうにラヴェルの「ボレロ」が透けて見え、それはたくまざる商業主義音楽手法によって、恥も外聞も無く、そして厄介なのはこのことに気がつかずにいる人たちが多いから、このくらいやっても身の危険性は無い・・・(パクリと見破れないだろう)であろうというような、聴衆を子バカにした態度が見え隠れする。

このような音楽を天下の・・・最も、いまやそうでないが・・NHKが恥じも無く選択肢採用していることに、小生は、とても我慢がならないのである。

見聞きするのを、拒否できない事情があるから、4月まではひたすらこの醜い音楽と我慢ごっこをしなければならないだろう。

ドラマの中身は、最近面白くなってきたというのに・・・・

伝統と現代を扱うドラマに(落語も塗り箸も)「師匠のまね」は、つき物でそして師匠や先代を追い抜かんとする志向が見えるが、なにもテーマ音楽まで(果たして佐橋俊彦の師匠といえるのか)ラヴェルそっくりな音楽を使うのは、意図的なのか、偶然なのか。

意図してやったとするのなら、誉めてやりたいところだが、そんなはずは無かろう。
決してラヴェルは、近寄ってくるものを拒みはしないが、決してだれも超えられない領域を持つ作曲家であるからだ。

[PR]

by noanoa1970 | 2008-01-30 14:51 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)