Sea Island Cotton手触りのベト7

カラヤンとウイーンフィルのDECCA録音を聞いて以来、延々ベト7を聞くことになった。

ベートーヴェンの交響曲作品の中では、唯一全曲通しで、しかも次々と演奏家を変えて聞くことが出来る稀な曲だ。

おとといはカラヤンの後、小生が最も気に入っているF・コンヴィチュニーとゲヴァントハウス管弦楽団のスタジオ録音盤とライブ盤両方を連続で聞き、コンヴィチュニーにしては珍しく、テンポを速めに取った、息をもつかせない演奏を堪能し、ユッタリとしたテンポで大らかなそして、コンヴィチュニーのベートーヴェンの定説を覆す、リピートを省いたライブ演奏に驚いた。

昨日はブロムシュテット、とマズアで、コンヴィチュニー以後のゲヴァントハウス管弦楽団の音色を堪能し、続いて比較的新しい録音としてペーターマークとパドーヴァヴェネト管弦楽団のラテン的な演奏を聞いたのだが、不思議と飽きることは無かった。

長年音楽を聴いて来て、比較のためにいろいろな演奏を聴いた経験はあるが、一気にしかも連続通しで同じ曲を聞き続けた経験は初めてのこと。

恐らく選択曲がベト7でなくてはかなわなかったことであろう。

演奏者によって、その「あらゆるところで」の違いが明確になる音楽は、ベト7以外にそんなに多くは無い。

その理由は恐らく、ベト7が根本的に持っている、めまぐるしいほどに変化していくリズムにあるのだろう。

聞く側にとって一番良く分かるのは、音楽のダイナミズムの変化であるからだ。

ベト7はそれが顕著で、楽章間のみならず、同じ場所で見ていても、流れるにつれて様々な顔を見せる清流のように、楽章内での変化点が結構多いから、ドキドキワクワクしながら、結局のところ全部聞いてしまうところがある。

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ゲヴァントハウス管弦楽団の新旧のオケの音色をタップリ楽しんだので、本日はやはりウイーンフィルの演奏をと思い立ち、かつてあらゆる賞賛を浴びたカルロス・クライバーの演奏を聞くことにしたのが先ほどのこと。

カラヤンとの演奏が、絹のベルベットのようだとするなら、クラーイバーのそれは、海島綿:シーアイランドコットンのような手触りの音楽だ。

一見絹のような光沢を持ち、カシミアのような肌触りが有るが、厳格な品質管理の下で生産される貴重な超長綿のオーガニックコットン。
人によっては、シルク、カシミア以上の評価をする場合もある。

小生は一着だけYシャツを持っていたが、確かに着心地は最上だったが、少し希成だったこと、扱いを知らない洗濯屋には出せないので、アイロンをかけるのに苦労がいることを経験した。

気難しいところがあり、かなり素材が人を選ぶところがある。

やはりこの素材は尋常では扱えないのかもしれない。

生産量はごくわずかで、1970年代の半ばまで、英国の王室・貴族の間でしか使用されない素材であったという。


クライバーは新表現主義というのか、新即物主義というのか、・・・このような概念に押し込めるほど、彼の演奏を聴いているわけではないが、カラヤンと同じウイーンフィルとの演奏であることを前提に言えば、・・・・

まず特徴的なことは、楽譜のリピート指示を忠実に演奏していることであろう。

しかしただ楽譜に忠実なのかというと、そこはクライバー。
各所で楽譜をいじっていて、ティンパニのリズム処理、第2主題の木管の吹かせ方の付点音符の処理の仕方、そして誰もが驚くであろう、2楽章コーダの前のピッチカートが、通常ボウイングに変化して終わるのを、そのままピッチカートで終わらせる。

何よりも・・・今ではそんなにも珍しくないのだが、そして寧ろこの方が、オケの歴史からすると古典的、伝統的で、この方を好む人も多い、「両翼配置」でウイーンフィルを操縦していることだ。

昔お世話になった「クラシック招き猫」という掲示板に「両翼配置」絶対主義者がいて、オケの置かれた環境・・・例えば聴衆の数やホールの形状そして大きさなどを抜きに「両翼配置」が絶対的にいいという人がいて、閉口したことがあったが、第1Vnと第2Vnを左右に配置する方法は、時としては音楽的音響的な効果を及ぼすことがあり、ベートーヴェンではこの7番当たりはその典型だといっても良い。

2楽章に最初に出るヴァイオリンは、実は第2ヴァイオリン群であるのだが、これが非両翼配置では左側に第1第2ヴァイオリンがかたまっているから、その配置のものしか聞いてない人の中には、最初のヴァイオリンの出が、第1ヴァイオリンであると思っている人も少なくないはずである。

奏されるメロディも、いかにも第1ヴァイオリンが弾いている主メロディと思わせることから、勘違いする人は多いはずだが、両翼配置のオケの演奏で聞くと、それは勝手な誤解であることに気がつく。

最初のヴァイオリンは、いかにも「私は第1ヴァイオリンですよ」というようなメロディを奏でるが、右から出て来るから第2ヴァイオリンだとすぐに分かるし、続く第1と第2ヴァイオリンの対位法的展開も左右から音が出てくるから物凄く分かりやすい。

4楽章の所謂掛け合いのところなどは、両翼配置の真骨頂。
音が交互に左右矢継ぎ早に出てくるから、音響的躍動感を覚え、これが一種の感動ともなることになる。

そしてこれはクライバー特有のことか、音響バランスを取るのが目的なのか、・・・・ティンパニを左後方に配して、ヤヤもすると右に偏る音響エネルギーバランスを上手く調整し、目の前に分厚く均等にバランスされた音響の渦が広がるのを感じることになる。

録音エンジニアの手腕もあるのだろう、低弦の刻むリズム、ホルン、そしてフルート、クラリネット、トロンボーンなどの管楽器は勿論、他の録音では余り見られないピッコロの高い音域が、ホルンの渋い響きとともに、見事な録音によって音楽的融合をしている。

惜しむらくは弦の滑らかさ。
これがもう少し荒くなければ、この演奏録音はベト7の3本指に上がるものだ。

カラヤン盤も、やはり一気に聞くことが出来るが、そこにあるのは心地よい緊張感と気品有る優雅さ。

クライバー盤は、手に汗を握る緊張感があり、血圧の上昇を招くような切迫感がある。折角着た海島綿のシャツに、いつの間にか汗の後がしみてくる・・・手触りはいいのだが、受け手がキチンとしてないとすぐに粗暴な野性味を出してしまうところがある・・・細部にわたってきちんと聞いてあげるべき演奏だ。

昔車のCMに「羊の皮をかぶった狼」というのが有ったが、クライバーはまさにそんな雰囲気を強く出す。

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オーソドックスなベートーヴェンと言われて久しく、いつの間にか化石のような存在になってしまう感がある、F・コンヴィチュニーだが、7番は全く世間の評価と異を唱えなくてはならない優れものであることを、申し添えておきたい。
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by noanoa1970 | 2008-01-08 15:38 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(4)

Commented by ラビット at 2008-01-28 00:19 x
クライバー/ウィンーフィルのベートーヴェン7番はブラームス4番と共に私のNo.1です。クライバーはクライマックスに至るまでのテンポの上げ方が絶妙だと思います。一言でいうと“カッコいい!”

2楽章のピチカートは、最近私も気が付きました。3楽章の最後のリピートは省略されていますね。ここを忠実にやるとTrioの再現部のさらに繰り返しのようになってくどいからでしょうか。

ブラームス4番、最終楽章終わりの弦のピチカートはトゥッティなので普通の演奏では聴き取れないのですが、クライバーでは他の音を抑えていて、はっきり聴こえます。クライバーはピチカートが好きだった?
Commented by noanoa1970 at 2008-01-29 15:34
>3楽章の最後のリピートは省略されていますね・・・
これは気がつきませんでした。小生が聴いた今までの演奏でもこの部分は省略していて、あのコンヴィチュニーでさえそうでしたですから、それが当たり前と思っていたのです。ここのリピートをやっている演奏はありますでしょうか?ご存知でしたらご教示ください。またクライバーは、縦と横の音を同じように重要視しているように思える節があり、和声に埋もれた旋律線やその逆をも比較的ハッキリ出そうとしているように思えます。ピッチカートにしなおしたのは、そのような意図があったのかもしれません。
Commented by ラビット at 2008-02-05 22:49 x
ベト7は CD 20枚程持っていますが3楽章の省略のないもは2枚見付かりました。

・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管 8'03"
・ムーティ/フィラデルフィア管 9'38"

ジンマンは近年話題になったベーレンライター版の世界初録音ということで忠実に演奏していたのではと期待?した通りでしたが、演奏時間はかなり短くてセコセコした感じがします。ラトル/ウィーンフィルもベーレンライター版ですが、こちらはシッカリ省略していますね。

ムーティは何故省略しないのか(当然の事だから?)分りませんが、少し見直しました。これから贔屓にしてみようかと思います。

最後の繰り返しというのは楽章中で一番盛り上がる処で、図にしてみると分りやすいですが、ここを省略すると繰り返しの周期が徐々に短くなって緊張感は高まるでしょうね。

Presto
A,A,B,B,

Assai meno presto
C,D,D,E,

Presto
A,A,B,

Assai meno presto
C,D,D,E,
  └──ここを省略
Presto
A,B,

Coda,Assai meno presto
F
Commented by noanoa1970 at 2008-02-06 14:26
20枚ものCDチェック恐縮でした。ジンマンはさもありなんと思うところもありますが、どうも小生ベレンライター版を好きになれないもので・・・
ムーティとは、以外でしたが、彼のベト第9も結構いい線いっている印象を受けたことがあります。ムーティは小生殆ど私有してない指揮者の一人ですが、リピートが入る演奏として一度聞いて見たいです。ご教示感謝です。