すべて偉大なものは単純である

昔読んだ「音楽と言葉」の中で巨匠「フルトヴェングラー」はそう語った。
ベートーヴェンの交響曲を引き合いに出して、その主題の単純なことと、その展開の妙についての言及がされていたように記憶する。

高度経済成長後の70年代の中ごろには、「sinple is best」が流行し、レナウンでは「シンプルライフ」がコンセプトの製品を提供するようになり、その広告塔が俳優の
ピーター・フォンダで、ソフトデニムの生成りのサファリ・スーツを着て登場していた。

ソフトジーンズにジャケットの自然体の姿にあこがれた・・・主に女性は、数知れなかったことであろう。
わが国において、大人のカジュアルがようやく誕生し、一世を風靡した。

バブルを体験した最近では、「もったいない」コンセプトとなって再登場の感があり、それはそれでいいことのように思えるが、それも現状では方便的にならざるを得ない。

染み付いてしまった「消費」依存症は、そんなに簡単に直るものでもなく、片方で「もったいない」を唱えるかと思えば、同じ口先で「廃棄処分、買い替え」をしてしまう。

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昨日久しぶりに「ゲッツ、ジルベルト」のLPに針を落とした。
「ゲッツ」というとJAZZファンでない限り、いまや業界から消えかかっている芸人のギャグ的パフォーマンス、あるいは(これは最近富に多いと思われるのだが)、何かを得る、獲得するという意味を表現するのに〇〇をゲットするなどと、まるで便利な日本語のように使われている。

国有放送局の大衆向けTV番組で、司会者がこの言葉「ゲットする」を使っていたのには驚いたが、「得る」とか「獲得する」「貰う」「いただく」などの言葉より使い勝手がよほど良いのだろうが、そうなると「ルー大柴」を笑えない現状がここにもあるような気がする。

ゲッツとは「スタン ゲッツ」でありジルベルトとは「アストラット、とジョアン」(このときはまだジルベルト夫婦)と、アントニオ カルロス ジョビンが1960年代初めに録音したJAZZボッサ、あるいはJAZZサンバと称して一台ブームを引き起こしたアルバムのことだ。

軽快で粋なリズムとシンプルなメロディが、ギターとピアノ、そしてSAXによって奏でる中、ノンビブラートによって、これもシンプルに歌われる女性ヴォーカルが、この世のものとは思えないような心地に導いてくれ、たびたび針を落とすLPとなった。

「イパネマの娘」は英語で歌われるので、その歌詞の単純さに驚いたが同時に、アストラットの声のトーンが絶妙で、それぞれの楽器のサポートと、とても心地よいマッチングをしているのに感動すら覚えたものだった。

2曲目の「DORALIS」で、ジョアンのヴォーカルが一段楽した後、ゲッツのテナーSAXが入ってくるところがあるのだが、その直前に「カタン」という音が入る。
当時のオーディオではこの音の正体がつかめず、SAXを首に吊るすためのバンドのツメを掛ける音だと長い間思っていたが、どうもそれはミルトン・バナナのドラムスが側面を叩く音のように聞こえる。

パーソネル
スタン・ゲッツ(ts)
ジョアン・ジルベルト(g, vo)
アストラッド・ジルベルト(vo)
アントニオ・カルロス・ジョビン(p)
トミー・ウィリアムス(b)
ミルトン・バナナ(ds)

1963年3月18&19日ニューヨーク、A&Rスタジオにて録音

一方このアルバムには収録されてないが、シンプルの代表としてAntonio Carlos Jobimが作った「SAMBA DE UMA NOTA SO」:ワンノート・サンバ という曲がある。

小生は「ワンの音サンバ」と冗談を言うことがあるこの曲、ポルトガル語がわからなくても、「ソ」の音で作られたサンバという意味であることはなんとなく分かる。

youtubeでジョアンジルベルトの「SAMBA DE UMA NOTA SO」を聞けば一目両全で、「タンタンタタタタ・タンタンタタタタ」というリズムが「G」の音で奏され、次に「C」の音で繰り返され、その基音に複雑かつシンプルなコードが付けられて変化していく音楽だということが分かる。

長いこと意味が分からなかった歌詞の大意が分かったので書き記しておく。

「SAMBA DE UMA NOTA SO」=「ワン・ノートサンバ」
意訳

みなさん聞いてください
この音楽は一つの音だけでできているサンバです
途中でいずれ他の音もだんだん入ってはきますが
ベースは一つの音だけでできているのです
ほら この「ソ」の音 聞いて観てください

あなたの手中に、わたしがいるように
この音があるのも、試行錯誤の結果のことです

長々とつまらないおしゃべりばかりしているが
真実を何も語ってない人間が多いように
(音楽のおしゃべりをいろいろ工夫しても見ましたが)
何も得るものはなかったのです

それで挙句の果てに、この音「ソ」の音に戻ってくることになったのです
たとえ浮気をしたとしても、最終的にあなたのもとに帰ってくるように

あなたをどれほど愛しているか
一つの音だけで、シンプルに語ってことにしました

いろんな音を求め過ぎても、どれにも逃げられてしまって
最後はたった一つの音に回帰する
すなわち私の愛しているのはあなた(「ソ」=「G」)なのです


「ソ」は「G」で、João Gilberto、Astrud Gilbertoの「G」そしてアルバム
Getz/Gilbertoの「G」でもある。

Antonio Carlos Jobimは「SAMBA DE UMA NOTA SO」を作るとき、ジルベルト夫妻の中が怪しくなりつつあることを知って、この曲に「夫婦のよりを戻す愛の歌」の意を込めたと思うのは考えすぎだろうか。

Getz/Gilbertoのアルバム録音後まもなく、João Gilberto、Astrud Gilbertoは離婚することになる。


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by noanoa1970 | 2007-10-13 10:37 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(2)

Commented by akemin at 2007-10-13 16:46 x
岩切直樹さんの書き下ろしによる 、
「トムがいた風景~ボサノヴァ・ファンのためのリオ案内」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4882028379/mirukonojikan-22
ボサノヴァの創始者として
「イパネマの娘」「ワン・ノート・サンバ」など
語り尽くせない名曲を残したブラジルの作曲家、
アントニオ・カルロス・ジョビンに関する評伝。
もうお読みになりましたか・・・。

「ワン・ノート・サンバ」にまつわる興味深くまた
トム・ジョビンを憂鬱にさせる事件にふれています。

『この曲の歌い出しの部分の一つの音を連続するあの部分・・・が、
コール・ポーターの「ナイト アンド デイ」のヴァーズに
そっくりだと言われてしまった・・・・。』
Commented by 手塚 吾郎 at 2008-08-14 21:38 x
あーっ!アストラットジルベルトの歌うワンノートサンバが聞きたいっ!