フィンランドとスコットランドの邂逅

中学生~高校生時代・・1960年代の半ばに、「フォークダンス」というものが流行ったことがあった。
体育祭などのイベントの終了時などに、全校生徒が運動場に繰り出して、輪になって踊るアレである。

「藁の中の七面鳥」という音楽がよく流れていて、男子学生は少し恥ずかしがりながら、それでも女の子の手を取り、輪になって踊りながら、順番に相手を変えていく。
普段は女の子なんかに目もくれないような、所謂「硬派」の男子学生でさえもが一緒になって踊るさまは、ほほえましいものだった。

1967年というと、小生が大学に入学した年なので、それが行われたという実感は無いのだが、坂本九が歌ってヒットさせた歌に「ジェンカ」という曲があった。
「Let's Kiss 頬寄せて Let's Kiss 目を閉じて
 Let's Kiss 小鳥のように 唇重ねよう・・・・」

踊りながらキスまでしてしまおうという、なんとも凄い内容の歌で、この歌で実際にフォークダンスを踊った経験が無いが、TVでは「ザヒットパレード」などで、よくこの歌が流れたのを覚えている。

「ジェンカ」を踊る・・・坂本九出演のTV番組で、出演者がみんなで踊るのを、お目にかかったことがあるから、小生はまったく経験は無いが、恐らく中学や高校でも取り入れられたことと思う。

今になって、「ジェンカ」という言葉が気になって調べると、思いもよらぬ事実が判明した。

「ジェンカ」とは、フィン語で 「Letka Jenka」 もしくは「 Letkiss 」で「列になって踊ろう」という意味であり、永六輔が作詞し、1966年9月に坂本九が、「レット・キス」の題名でカバーしたといわれる。

なるほど、「 Letkiss 」だから「Let's Kiss」・・・さすが永六輔、なかなかやるものだと、感心することし切り。

さて、この曲は「フィンランド民謡」であると、記述されているが、小生の耳にはどうもブリテン諸島の古謡のように聞こえるところがあるので、さらに調べてみると、面白いことがわかった。

『作曲者は、ラウノ・レティネン(Rauno Väinämö Lehtinen 1932年4月7日 - 2006年5月1日)で、フィンランドの作曲家であり、指揮者でもあった人。
フォークダンスに基づいた曲「Letkis」は1960年代に大ヒット。92以上の国で記録された。日本では坂本九が「ジェンカ」としてカバーし大ヒットした。』

・・・・「民謡」ではなく、近代の音楽家による作品であったということと、「民謡」という表現は「ジェンカ」・・・「フォークダンスに基づいた曲」というようなあいまいな表現・・・「フォークダンス」とは民衆の踊りであるから、そこから「民謡」という言葉が独り歩きした。

「ジェンカ=フィン語では Letka Jenka 」という民謡形式に、「ラウノ・レティネン」が新しく曲をつけた「Letkis」が世界中で流行し、それを永六輔が作詞、坂本九が歌って、日本でヒット、その後「ジェンカ」というフォークダンスとして、従来の「藁の中の七面鳥」同様に踊り告がれることになった。
・・・これが恐らく真相であろう。

「民謡」というのは「Letka Jenka」のことであり、「Letkis」とも言われるようであるがこのネーミングは、作曲者がつけたものであったのだ。
「古賀正男」のオリジナル曲を、「〇〇演歌」というようなことなのであろう。

前置きがだいぶ長くなったが、「ラウノ・レティネン」が作った(1963年というから新しい)「ジェンカ≒Letkis≒Letka Jenka」は、小生の耳には限りなく「ブリテン諸島」の民謡風に聞こえるのである。

そこで参考として引き合いに出すのは
ドビュッシーが1891年に作った「民謡の主題によるスコットランド行進曲」Marche ecossaise sur un theme populaireのテーマに至極類似していることに気がついたからである。

この曲は、ドビュッシー初の委託作品、依頼主は「リート将軍」という人物で,スコットランドの伯爵家の血を引く人物とされる。
「牧神」の3年前に作曲されたこの曲は、「牧神の午後への前奏曲」の「前奏曲」的音楽語法が垣間見れるような曲調があり、重要な位置づけ作品とする人もいるらしい。

曲調のコメントは苦手だが、思いつくものを上げてみる。

3部形式風のところは「牧神」を想起するが、主題が変化しながら繰り返されるのが循環形式風でもある。
なんといってもこの曲の主たるところは、スコットランドの古謡をモチーフにし、スコットランドスケールのトリルで始まる民謡主題が、リズムや和声により表情を変えて行くところ。

中間部ではシンコペーションの巧みなこと、テンポを非常にゆるく取るため、別の主題のように感じるが、よく聞くと同一主題の巧みな変身であることがわかる。

そして力強く活気あふれるような主題にまた戻り、最初のスコットランドの古謡のテーマが、途中3拍子と変わりながら、終曲へと向かう。

こうなると気になるのが、ドビュッシーが引用したスコットランドの古謡。
手持ちのものなどを当たっては見たが、今のところ該当するものが発見できないでいる。
ただ、このメロディー、かなり耳に馴染んだものだったので、思いを巡らしていた時に出てきたのが「ジェンカ」であったというわけなのであった。

フィンランドとスコットランドの民謡は、本来であれば結びつくはずは無いのだが、「ジェンカ」は、民謡ではなく、1963年フィンランドの作曲家「ラウノ・レティネン」が作った「Letkis」が「民謡」という意味であったのを、フィンランド民謡として間違えて認知したため、この作品がフィンランドの「古謡」であるがごとく扱われてしまったことによる誤解であること。

恐らく作曲者の「ラウノ・レティネン」は、作品のモチーフをブリテン諸島の民謡に求めた、その結果、ドビュッシーが「行進曲」に引用した「スコットランド民謡」と、フィンランドの・・・フォークダンスの曲として有名になった「ジェンカ」の類似性を見ることになったのだ、という結論を得ることとなった。

しかしながら、いまだにこの2つの曲のテーマのオリジナルと推測されるスコットランドの古謡を発見するに至っていないから、今日も引き続きそれを探す旅が続くのである。(このような作業は、小生にとってはとても面白いことである)

「ディミトリーティオムキン」が作り、「マーティ・ロビンズ」が歌った映画「アラモ」の主題曲「アラモの歌」にも類似を見ることが出来るから、元歌の発見は近いかもしれない。

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小生が聞くドビュッシーの「スコットランド行進曲」の音盤はただ一種しかないが、この録音、同時に収録されたものを聞くにおよび、その演奏の秀逸なことは、認めないわけにはいかない。

とりわけ、オケの色彩感の表出はこの指揮者の得意とするところで、ドビュッシー、ラヴェル、そして忘れてはいけないのが、名手「グリュミオー」と競演の「ラロ」の「スペイン交響曲」。

オーケストラから「色」が見える演奏として、小生が気に入っているもの。
「牧神」も「海」も「夜想曲」も「やあ春」も全てが二重丸。

◎マニュエル・ロザンタールの肖像
マニュエル・ロザンタール/パリ国立オペラ座管弦楽団
<収録曲>
ドビュッシー:春の挨拶、アンヴォカシオン
舞曲(スティリー風タランテラ/ラヴェル編曲)、スコットランド風行進曲
牧神の午後への前奏曲、夜想曲、交響詩「海」、サラバンド(ラヴェル編曲)、管弦楽のための映像

ラヴェル:道化師の朝の歌、スペイン狂詩曲、バレエ音楽「マ・メール・ロワ」、ラ・ヴァルスボレロ、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」、高雅にして感傷的なワルツ、古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ、クープランの墓

ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編曲):はげ山の一夜
ボロディン:中央アジアの高原にて、リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行
序曲「ロシアの復活祭」作品36、チャイコフスキー:イタリア奇想曲作品45
ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」より3つの舞曲、バレエ音楽「恋は魔術師」
アルベニス(アルボス編曲):イベリアより5曲、デュカス:魔法使いの弟子
ACCORD 476 107-6

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by noanoa1970 | 2007-04-27 10:18 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)