九谷「卵殻手」の里帰りティーカップ

まだ現役だった頃、名古屋の「東山動物園」裏手の山間にある老夫婦が趣味的にやっているような喫茶店に入ると、そこには西洋アンティークが置かれていた。
お茶を飲みながらアレコレ見ていると、ふと面白そうなものが目に留まった。
日本風のデザインが施されたティーカップ。

手にとって見ると、驚くほど軽い。
不思議なものがあるな・・・と一瞬思い、化学物質で出来ているのかとも思ったが、どうも違う。
すると、女主人が「これは知人から預かっているもので、古い輸出用のカップ」だという。なるほど全部で6客ある。国産のセットは5客であるから、輸出品の国帰りであると悟った。
なんでも卵の殻を土に混ぜて作られていて、向こうが透けて見えるほど、薄くて軽いのが特徴だとも言う。

「ボーンチャイナ」というのは聞いたこともあり、所有もしているが、卵の殻は初めてだ。
女主人はさらに「お気に入りでしたら、お譲り出きるかどうか電話で持ち主に聞いてくれる」というので、値段によってはと、思いつつお願いした。

持ち主はかなりのアンティーク好きで、どういう事情かは知らないが、この女主人に頼んで喫茶店に置かせてもらっていて、話の合いそうなアンティーク好きな人には・・・・直接本人というわけでなく、喫茶店の主人と、話が合うということらしく、そのあたりは良く知る人なので、任されているらしい。

店主の初老の夫婦は、二人とも上品そうで、紅茶にも小生の好みの「アールグレイ」をメニューに加えているから、かなり良い趣味人と小生には思えた。
話し振りも、身なりもかなり上品であった。

電話が終わって女主人が言うには、実はこのセット、全部で6客あったのだが、1個だけカップが割れてしまっていて、皿が6枚に、カップが5客しかないが、それでもよければ、お安くお譲りしても良いという。
どうやら小生をかなりの骨董好きと思い込んだらしく、店でかかっている、LPレコードや音楽についても・・・・運良くクラシックだったので、音楽の中身に触れたのが、そのような趣味人として判断された理由だったのかもしれない。

値段を聞いて財布の中身を目算し、何とか支払いできる金額だったので、いただくことにした。
こんなものしかなくて・・・といいながら、包んでくれたのが、なんと結婚式の引き出物でよく見かける「寿」の文様が入った、赤い化繊の風呂敷だったので手に持って帰社すると、「結婚式だったのですか?」などと誤解されたのを今でも覚えている。

あ、いや・・・などとごまかすが、どうしても「物」を見たくなって、器の好きな女の子の前で一緒に見ることにしたが、どうやら若い人には人気がないらしく、あまりよい反応が得られなかった。
仕方なく、手に持たせると、ビックリした顔で、「軽い」と小さく叫んだ。
そう、ほんとにそしてビックリするほどこのティーカップは「軽い」。
手元に秤がないので正確な重さがわからないが、中くらいの大きさのオプティカルマウスよりも軽い、といったらわかっていただけるだろうか。
カップ&ソウサーで、恐らく100gはないだろう。

ネットで調べても、この「卵殻手」・・・ランカクデの情報はごく少ない。
以下は、長崎県佐世保市の「五光窯」のHPからの引用である。

『江戸時代後期、文化・文政の頃より三川内にて製作されるようになったエッグシェルは、
天保年間(1830~)になってようやく少量ずつの生産が可能になりましたが、製品はその
ほとんどが欧米へ向けて輸出されていました。
 1867年に開催されたフィラデルフィア万国博覧会にも、三川内焼の極薄手コーヒー
碗が出品され、人気を博したことが当時の資料にも残っています。
明治30年頃まで、海外輸出品として脚光を浴びたエッグシェルも、世界大戦の
勃発により徐々に輸出が減退していき、その影響で奢侈な製品の製造が難しくなり
海外輸出も途絶え、それにともない三川内皿山での卵殻手も造られなくなりました。

戦後、多くの職人たちが機械的な製造法など様々なアプローチで再現を試みた
ようですが、いずれも流通するまでの製品化には至りませんでした。
極秘密とされていた卵殻手の製法と、手ろくろの高度な技術の壁を越えることが
できなかったからです。
厚さ1mm弱という薄さのため、一般の白磁の原料では窯の中で焼成中に割れたり
変形してしまいます。.,
宮中および将軍家には、軽い飯碗が献上されてました。

「名物に重きもの無し」(細川家)との言葉が似合います。

輸出用「卵殻手」には、金襴手と呼ばれる「赤絵」が施されています。
この技法は、三川内と九谷が有田より早く江戸時代に完成されてます。』


小生入手のティーカップは、高台に「九谷・・・<カ>の窯マーク」が有るから、三川内製でなく、金沢の九谷窯のものであろうと思われる。
絵付けも「杜若と、藤」が赤絵と金襴でで描かれていて、金襴での割にはシックなのが気に入っている。

外国人がいかにも好みそうな「ジャポニズム」が、高い技法のうえで、透明感、軽さと、古きよき伝統と巧みに融合された様子が伝わるでしょうか?
19世紀末、あるいは20世紀初頭のフランスのエスプリ人たちに好まれそうで、それがなぜか国帰りして、小生の手元に存在する、というめぐり合わせの幸福を、味わいなおすことが出来るお気に入りである。

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by noanoa1970 | 2007-02-02 10:05 | 骨董で遊ぶ | Comments(0)