ホテルNCの頃ー6

ある日のこと、仲間の一人が宿泊の担当から情報を仕入れてきた。
皇太子夫妻(現天皇)がこのホテルに宿泊するのだそうだ。
県を上げての大掛かりな植樹祭のイベントで、」この地に来られ、1泊するという。
たがて厨房にも正式に情報があって、夕食と朝食を提供するから、整理整頓、厨房の清掃をする、そして身だしなみ、特に衛生面の注意があり、爪を短く、髪の長いものは散髪するようにとの御触れだ。
その日を前にして厨房の大掃除となり、床には「苛性ソーダ」を熱湯で溶かしたものを巻いておいてデッキブラシでこする。冷蔵庫、冷凍庫はピカピカにみがかれ、中についた霜などもきれいに取り除かれ、ストーヴも磨かれて、フライパンや鍋類もピカピカとなった。

当日の朝から物々しい警察の警備が始まり、出社時の面通しチェックがあった。
この日偶然小生は「泊まり組」だったが、いつもの時間より早く出社することになり、提供するであろうと思われる料理の食材の中で、特注であつらえた中から、とりわけ新鮮なもの、形がよいものを用意することになった。
夕食はお二人ともに、「ミニッツステーキ」で「フィレ」か「ロース」かまでは決まってなかったようで、2種類を2人前分・・・何かあったときの証拠用として、もうひとつ同じものを用意しておく必要があったから、4名分が必要になる。
同じものを、1日は残しておかねばならないのであった。

このためホテルに出入りする業者に特注した、牛フィレとローズから厳選し、150グラムほどの松阪牛をロースを4つ、フィレを4つ、最もよい部位を切り出し準備することになる。
さすがにこの準備はセカンドが自ら行い、「ガロニ」も形が均一に剥かれたフライドポテト用のジャガイモを、セープ(主に椎茸を言う)を赤味に使い、青味はインゲンとした。
今ある最上の産地からのグレードの高いものである。

調理には総料理長が立会い、指名された1番のコックが担当し、盛り付けは総料理長が自ら行った。
オーダーが入るまでの時間がものすごく長く感じられ、その日は宿泊客も制限され、勿論パーティや婚礼などは無いから、この一大イベントが終了すると、とたんに静寂が帰ってきた。
19時にはほとんどのコックが引き上げ、21時までセカンドの一人が明日の朝食の卵を厳選しつつ、万が一のため待機したが、それもいなくなって、次の朝を迎えることとなった。
いつものあわただしさは無く、明朝の「皇太子殿下夫妻」のルームオーダーを待つ軽い緊張感だけがあった。
「昨夜の食事は残すことなく食べられた」という報告が宿泊の支配人からあって、総料理長以下一安心したので、総料理長は、その朝はとても機嫌がよく、朝食を持っていくと、珍しく話しかけてきた。
朝食の卵料理は何を召し上がるか当日決まるから、みなにそう伝えて置くように、十分気を入れて頼む・・・そんなようなことを言ったと思う。
7時半になると、宿泊の支配人自らルームサービスオーダーを告げに来て、殿下のオーダーは、「スクランブルエッグ」ハム添え、「4分ボイル」ベーコン添えだという。
いずれも小生の持ち場であるが、小生がやってもいいかどうか迷っていると、「君がやりなさい」と総料理長がそばで言うから、少し緊張しながら、あらかじめ厳選した卵を4つ、お湯に落とし、キッチリ4分測り、もう一方作業中のスクランブルエッグを完成させてデシャップに運ぶ。

提供したものと同じものを・・・コピーを作り取りおいてハムとベーコンを付け合せて、無事「皇太子殿下夫妻」の夕食、そして朝食のイベントが終了した。
小生は幸運にも?皇太子夫妻の夕食の「ガロニ」と朝食の「スクランブル」そして「ボイルエッグ」の担当をやることになったのである。
料理そのものはどうということは無いのだが、これは今でも懐かしく思い出す「ホテルNC」での出来事の大きなひとつである。
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by noanoa1970 | 2006-12-01 09:10 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(4)

Commented by kitaken at 2006-12-02 02:00 x
こんにちは。コンヴィチュニー・ファンを探して御サイトにたどり着きました。ベートーヴェン全集はやはりLPで聴くべきなのですね・・・。小生は、徳間ジャパンで国内初めて発売された98年のものを所持しておりますが、それよりはBerlin classicsの初期盤やコロナなどのほうがよいのか気になっているところです。
管理人様は国内盤をお聴きになられたことはございますか?
Commented by sawyer at 2006-12-02 10:23 x
kitakenさんこんにちは。小生が聞きえた国内版は「フィリップス」あるいは「フォンタナ」レーベルのLPで、CDは全て海外盤です。LPは「マスター」の関係で初期版とそうでないものの差が大きいです。「エテルナ」と「国内版「フォンタナ」では雲泥の差が有るといっていいでしょう。しかいCDになると、「マスター」は「リマスター」と表記があり、エンジニアの名前が記載されない限りたいてい同一のことが多いように思います。ポーランドの「ナグラニア」レーベルの第9はその中でもかなりよい・・・初期LPのような音を再現していました。多少の違いは有るにせよ、CDの場合はその差は少ないと思います。音圧の差、録音レベルの差、CDそのものの材質による微妙な差はあるかもしれません。コロナとベルリンクラシックスでは微妙だが、どちらかというと、LPに近い、あるいはコンヴィチュニ0の・・・小生が経験的に判断している・・・これが彼の音・・というものを再現しているように思います。ベルリンクラシックスのシューマン全集を聞いてみてくださればお分かりになりやすいと思います。
Commented by love :) at 2007-01-24 23:16 x
don't worry
Commented by love :) at 2007-01-31 23:01 x
I think you have a very nice site, keep it up.