ブリテン諸島の近代音楽

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引き続いて聴いた曲は、またもBAXの交響詩「Nympholet」。
しかし作曲の動機や曲に関するエピソードについての資料は何もない。
せめて「Nympholet」とは何を意味するのかと、調べは見たものの、ズバリとした結論には至らない。
推測では「Nymph」・・・ニンフが変化したものであるらしいことはわかるのだが、BAXの作品タイトルとの説明がつかないままだ。
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このままでは気もちが悪いと思って、しつこく探ってゆくと、上のような絵画に出くわした。
しかしそこには、あのギリシャ神話の「ニンフ」、ドビュッシーの「牧神の午後・・・・」に登場する「ニンフ」の姿はない。
森の中で倒れている若い男の姿を、近くから伺っているうら若き女性(これがニンフか)・・・あるいは男性か・・・その光景が描かれたもので、作者はわからない。

ただその絵には「DHローレンス」の以下の
文章がつけられていた
"in the woods and the remote places ran the children of pan, all the nymphs and fauns of the forest and the spring and the river and the rocks. these, too, it was dangerous to see by day. the man who looked up to see the white arms of a nymph flash as she darted behind the thick wild laurels away from him followed helplessly. he was a nympholept. fascinated by the swift limbs and the wild, fresh sides of the nymph, he followed for ever, for ever, in the endless monotony of his desire."
- d.h. lawrence


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さらにレコードジャケットのような、不気味なものまであって、フォークソングだという 内容がかかれてあった。
"my girl, my girl, don't lie to me, tell me where did you sleep last night.
in the pines, in the pines, where the sun don't ever shine, i will shiver the whole night through."
- folk song

これはオ-ルド・バラッドに属するものと小生には思われ、その常套句である「 "my girl, my girl, don't lie to me, tell ・・・・」という節に象徴される。
「i will shiver the whole night through."」・・・一晩中、震えがとまらないだろう。という原因がどこにあるのか・・・・それは・・・・
アイリッシュオールド・バラッドでは、このあたりを森に住む「妖精」・・・禁断の森に迷い込んでしまった人間をいろいろな手段で殺そうとする・・・そのようなお話は数多い。
中には、人間の男を誘惑して、最後には殺すという話まである。
レーヴェの「オルフ殿」、シューベルトの「魔王」の原型もこの類の話である。

こうしてみてくると、BAXの交響詩「Nympholet」は、ギリシャ神話のニンフが遠く海を越えて、ケルト民族によってもたらされたアイルランドのオールド・バラッドに題材と、名前を取って作られた物である・・・と推測できよう。
ギリシャ神話の「ニンフ」はアイルランドに来て「妖精」=「フェアリー」に転化した。
あるいは、本当のルーツは逆、ケルト→ギリシャ→キリスト教文化であるのかもしれない。
そしてその意味するものは、「ニンフに取り付かれた若者」「ニンフォマニア」「ニンフストーカー」そのようなものを意味するのではあるまいか。

ギリシャには「Nympholet洞窟」もあるらしいのだが、いずれにしても、まだまだ
「Nympholet」・・・BAXがなぜこの言葉を表題にしたかは(謎)のままである。

音楽はといえば、・・・・
「アンニュイ」というフランス語があるが、曲の出だしはまさにその言葉がふさわしい。
しかしそこにはあのドビュッシーの「牧神・・・」に見られる「神話の世界」の中での話ではなく、「現世と来世」、「森と平地」、「人間と、妖精」、「夢と現実」とうとう・・・つまり人間と魔性の者の異世界「交感」の様子が、音楽の変化していく姿に表れるようだ。

全体のトーンはドビュッシーの「海」を髣髴させるものではあるが、決定的な違いは・・・ここがフランスとイギリスの、あるいは作者自身の個性の違いなのか、BAXの音楽は、旋律線をくっきりと描き出し、おそらくオールド・バラッドの手法を採用したかと思えるような、「問いかけとその答え」によって、物語が進行するさまを表しているように思える。

ブラームスはそのあたりをピアノ曲4つのバラードの最初、「エドヴァルト」で書いた。
「息子よ、お前の服についている赤い血は何だ」
「はい母上、鷹を殺しました・・・・」
このような「問いかけと答え」によって恐ろしげなドラマが展開していくのであるが、BAXのこの曲にもその手法らしきものが見え隠れするようである。

この曲においてBAXは、古代旋法は用いているふしは認められるが、ケルト、アイルランドの伝統歌を直接引用はしていない。
それらしきものはあるのだがいずれも、組み立て、再編しなおして使っているようで、そのあたりが、単なる「イギリス印象派、象徴派」という言葉ではくくることができないものを持っている作曲家であることを物語る。

いずれ書くつもりだが、彼の7つの交響曲では、年を追うごとに、かなり作風が変化しているように思える。

演奏に携わった
デーヴィッド・ロイド・ジョーンス
ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団
はいずれのBAX作品においても秀逸な演奏を聞かせる。
特に、弦楽器群の表現力は特筆ものである。
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by noanoa1970 | 2006-10-04 08:40 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)