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「新世界」同一指揮者の2つの演奏を聴く・・・「イシュトヴァン・ケルテス」

  「イシュトヴァン・ケルテス」指揮
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年録音
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 「イシュトヴァン・ケルテス」指揮・ロンドン交響楽団・
  1965年録音
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「ケルテス」と今では表記されるが、小生が始めて「ケルテス」を知ったときは、「イーストヴァン・ケルテッシュ」と表記されていた。
確か1962年コロムビアから発売されたクラシック音楽の入門の、50枚組みLP全集のなかの、「アルテュール・ローター」指揮のベートーヴェンの代9の余白に、「ケルテス」が「バンベルク響」と演奏した。「レオノーレ3番」、」「エグモント」の序曲が収録されていて、その圧倒的力強さに聞きほれ、「ケルテス」の情報などほとんど無いときであったが、勝手に「素晴らしい指揮者」だと思っていた。「ケルテス」は1929年生まれというから、ベートーヴェンの「序曲」も、この2つの「新世界」の録音いずれも彼が30台前半から後半の時のものである。

VPOとの録音はケルテスがウイーンフィルと録音したLPの、いわば「デビュー盤」とも言うべき記念碑的録音で、発売当初からかなり話題になった覚えがある。日本での発売は録音から数年たった時だった記憶があるが、「ベーム」がそうであったように、ここでの「ケルテス」は、VPOを手中に収めて引っ張っていくことを避け、恐らくほんのポイント・・・これだけは譲れないところだけを入念に指示したのだろうと思えるような音楽作りをしている。

VPOは隅々まで自分たちの持ち味を出し切っているようで、各パートは伸びやかに歌い、優雅に音を美しくk響かせる。管楽器はまるで自分がソロになったように流麗だ。
当時は今のようにそんなに評価も定まってはいなかったと思われるが、それでも若き天才指揮者に良くVPOがこれだけの演奏を聞かせてくれたものだと、不思議に思う気持ちと、オケの「信頼」を勝ち得た「ケルテス」の非凡さがしのばれる。

いまもこの録音が人気度ナンバー1の座、お薦めの音盤のトップの位置を占めるのは、一期一会の指揮者とVPOの丁々発止が本当にうまく機能したからに他ならないのだと思う。

この録音プロデューサーは「カルーショウ」なのかは不明であるが、彼の「DECCA」の録音を思わせるような音作りも人気の要因であるのかもしれない。
「ケルテス」はすぐ後に「ブラームスの2番」の交響曲をそしてそれから10年後に、1・3・4を録音するのだが、4番の終楽章を待たずに、「イスラエル」の海岸で、不幸にも溺死してしまったという。

40歳の前半であったから、惜しい才能をなくしたものである。VPOが指揮者無しで4番の残されたところと、「ハイドンヴァリエーション」を録音したことは有名な話であう。
したがって2番だけが少し古い録音だが、小生はこの1963年に録音した「ブラームスの2番」を最も好きな演奏の一つとしている。

演奏時間で特徴を探ることは、ほんの一つの手段にしか過ぎないのだが、一応やってみることにした。

    1楽章   2楽章    3楽章   4楽章 
旧盤 9分49秒 11分49秒 7分42秒 11分42秒
                     トータル40分32秒新盤12分29秒 12分26秒 7分34秒 11分14秒 
                     トータル43分33秒 
結果は上記の通りで、 新盤の方がトータルタイムは3分長く、これはほぼ一楽章の長さの違いが大きい。

これは「新盤」では、繰り返しを丁寧に行っていることによるものと、「旧盤」に比べて、スラーやフェルマータにかなり「息の長い音」をさせていることによるものだ。
非常に楽しい・・・まるでスキップをしながら歩き行くような「旧盤」に比べると、「新盤」はややジックリ音を溜め込んでから放つような演奏に変化している。

オケは「ケルテス」の棒にに忠実に演奏しているかのようで、「旧盤」に比べれば少し溌剌感にかけるが、かなりシッカリした輪郭を形成している。
「新盤」の録音は、ドヴォルザークの交響曲全集の中の重要な位置づけであったはずだから、「旧盤」のように、オケにゆだねるところが大きかったVPOとの録音にはない特徴があり、その一つが「繰り返し」。

今ひとつは、恐らく「ケルテス」は全集として録音するときに、楽譜を入念に調査し見直したのだろう、「旧盤」では「旧版」の楽譜をメインに加筆したように思われるのだが、「新盤」では「新版」の楽譜をメインにそれにアレンジを加えたようなころがある。

一楽章冒頭の「ホルン」の応答も其れによって、2拍目の入りへと変えているし、若干ではあるが「戦闘的」鳴らし方のように聞こえる。第2主題のフルートも趣が違う。

恐らく「ケルテス」としては「旧盤」の評価が高かっただけに、満を持した、「DECCA」 の期待を一身に背負って録音する全集の・・・特に「新世界」の「旧盤」との差別化を意識したのではないかと推測される。

この2つの「新世界」における世間の評価はまちまちだが、其れはどちらも悪い評価ではなく、どちらを寄り好むか・・・ということに終始する。
小生が学生時代所属した「DRAC」においても評価、人気は二分されたと記憶する。

VPO絶対主義者・・・今でこそあまり多くなくなってきたが、当時は両カリスマオケ、BPO VS VPOの図式が合ったように記憶するし、「モントゥー」の熱烈なファンでもない限り、「LSO」びいきの人間はそんなには多くなかった。

両方の録音をキチンと聞いた人は、「開放感があり、オケに自由度が高く、牧歌的で大らかな旧盤=VPO盤をより評価するのに対し、オケの統率力があり、音楽の構成とメリハリをよりクッキリと出し切った、そして細かいところのニュアンスをキッチリと出し切る、トータルバランスとしては新盤=LSOを評価するという人も少なからず存在した。

実際この評価は、LSOとの「8番=イギリス交響曲」に最も当てはまるもので、この「ドヴォ8」はまことに見事な演奏である。

「新世界」に何を求めるか、其れによって分かれるのであろうと思うのだが、指揮者が自分の意図なるものを良い形で反映でき、音楽的にも、録音にも優れ、楽譜にも気を使い、オケを十分鍛錬した結果がより現れているLSO=「新盤」をより評価するとともに、好きな演奏の一つとしておきたい。

オケの音色は、やはりVPO独特の「たおやかさ」に軍配が上がるが、技術的には「互角」である。
どういうわけか世間での評価は今一歩の・・・指揮者の個性がより出ている「LSO」との「新盤」を小生はより好む。

by noanoa1970 | 2006-01-11 10:01 | 新世界を聴く | Comments(2)

Commented by おっさん@新横浜 at 2016-06-22 13:13 x
オーディオを再構築している今、ケルテスを再評価せざるを得なくなりました。
モーツアルト、ブラームス ウィーンフィルを集めていたのですが、つまらない
演奏だったのです。 ところがCDプレーヤーを入れ替えて再確認すると、鳥肌
がたつほどの感激に襲われました。 半端ないユラギがあったのです。 フラメ
ンコを観に出かけて、伴奏のギターと歌いの技に心を奪われた経験に通じるもの
だったのです。 ハイティンクは86年頃から大きな演奏に変っています、後年
のハイティンクの巨大な音像には及びませんが、若年ながらケルテスの描いてい
る音像も決してこじんまりと小さくはありません。 稀有な事です、出来る限り
は、CDで集めていこうと思っています。
Commented by noanoa1970 at 2016-06-22 18:20
コメントありがとうございます。装置が変わると、音盤演奏も変わることは経験しています。ただし変わることとよくなるという事は異なる点が重要です。音質が良いと演奏が良いという勘違いはよくあるようです。いずれにしましてもじっくりと聴きこむことが必要になってきます。