人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「新世界」同一指揮者の2つの演奏を聴く・・・「コンスタンティン・シルヴェストリ」

  1957年7月9・12モノラル録音
「新世界」同一指揮者の2つの演奏を聴く・・・「コンスタンティン・シルヴェストリ」_d0063263_13335944.jpg


  1959年10月20・23ステレオ録音
「新世界」同一指揮者の2つの演奏を聴く・・・「コンスタンティン・シルヴェストリ」_d0063263_13385646.jpg

「シルヴェストリ」は「怪演」「爆演」指揮者と一部で言われているが、小生はそのようには思っていない。1960年代初め頃、来日してN響を指揮したことを思えておられる方もいらっしゃると思うが感情の起伏が激しい音楽作りのせいなのか、彼の評価は二分される。
小生はある録音を聞いて彼に対する見方が、大きくプラスに変わった。

それというのは「ドヴォルザーク」の8番「イギリス」を聴いていたときのこと、4楽章金管楽器のファンファーレの直後、・・・
(1960年代の後半にNHK・FMの日曜日だったか、うろ覚えなので、違っているかもしれないが、「門馬直美」氏の解説で、クラシック番組をやっていたことがあって、その「テーマ音楽」として使用されていたのが、ワルターが演奏するこの美しいドヴォ8終楽章のメロディだった。)

・・・そんな懐かしいそしてこの交響曲で一番の美しいメロディが、低弦で奏されるのであるが、そのリピート時に他の指揮者・・・このメロディの部分の最も美しい「ワルター」の演奏、あるいはベルベットのような「カラヤンとVPO」、才気あふれる「ケルテス」においても、お家芸の「ノイマン」も決してやっていないようなこと・・・すなわち、その美しいメロディがよどみなく流れるところの大切な1音を「半音上げ」ている」のである。これによって其れまで美しく聞こえてていたメロディラインがとたんにその「色気を失ってしまう」ほどなのだ。

後に「アーノンクール」も同じように演奏していて、この演奏をして「楽譜のミスプリントを平気で演奏した」もの・・・と酷評する諸氏も居たと記憶するのだが、其れは違っていて、「アーノンクール」よりも30年も前に「シルヴェストリ」はこのことを実践していたのであった。

このチェロのパート譜はキチンと存在しており、其れに従ったと、「アーノンクール」は語っているから、音楽学者としても高名な「アーノンクール」以前に、そのことに着眼した「シルヴェストリ」はただの「怪演」「爆演」指揮者などではなく、使用する楽譜を彼なりに研究していたから、其れはそれで立派なことだと思うのである。
ただ小生は「アーノンクール」や「シルヴェストリ」のこの部分の演奏は正直好きではない。

「新世界」も「シルヴェストリ」の独特の味付けが随所に盛られる演奏である。
ある時クラシック音楽の「掲示板」で同じ「フランス国立放送管弦楽団」との「シルヴェストリ」の「新世界」のモノラル録音とステレオ録音で、演奏がどうも異なるようだ・・・という投稿があった。
小生は、てっきりよくあるステレオ録音を政策的に、モノラルにして発売したものか、あるいは、モノラルの「擬似ステレオ」ではないかと思ったが、事実は違っていて、オークションでモノラルのLPを入手して聞いてみると、其れは明らかに別の演奏であった。

にも拘らず「モノラル盤」「ステレオ盤」ともに、「フランスディスク大賞」を与えられたというから不思議である。しかし、この時代のレコード・・録音などに関するものはかなり誤謬があることをしばし経験しているから、これもその範疇なのだろう。

モノラル=旧盤、ステレオ=新盤として話を進めることにする。新旧両演奏の時間を計測した。旧盤はLPなので、正確ではないかもs知れないが大幅な狂いは無いだろう。
時間を計測したのは、実際の時間と、音楽的時間の流れに差異があるのでは?と、この2つの演奏を聴いていて思ったからである。

結果は以下のようになった。
旧盤1957年録音(モノラル)  新盤1959年録音(ステレオ)       
1楽章   8分35秒       1楽章   8分50秒
2楽章  11分30秒       2楽章  13分33秒
3楽章   7分25秒       3楽章   8分04秒
4楽章  10分18秒       4楽章  10分49秒 
トータル 37分46秒      トータル 41分16秒

「シルヴェストリ」の「新世界」には恐らく「プラハ・スプラフォン版」すなわち「新版」の楽譜が使われたのだろう。一楽章出だしの「ホルン」の応答は2泊目のいり、そしてどちらかといえば「やさしい」鳴り方で「協調的」に吹いている。これはも新旧両方で、有る資料によると、新版楽譜の発表が1955年というから、「シルヴェストリ」は発表と同時に、いや恐らくその前からこの「版」の存在を知っていたと推測することはできないだろうか。

冒頭に、「8番の4楽章の例」を挙げたように、この点からも「シルヴェストリ」がただの「怪演」「爆演」指揮者でなく、楽譜の研究にも精通していたことが推察される。
そういう意味から「アーノンクール」の先生といっていいのだろう。

2楽章を除けばほとんど同じような時間で演奏しており、実際2楽章は明らかにユッタリと、美しく演奏しようと勤めている新盤に比べて、旧盤では怒涛のような一楽章の余波を買って、ヤヤはやめのテンポで飛ばす前半と極端にテンポを落とす後半に分かれ、結果11分にとどまったが、前半のペースなら10分を切ったかも知れない。

そこ・・・楽章内の大幅で急なテンポの変化、歌いたい場面では極端にテンポを落としてタップリと聞かせどころを作ること・・・その変わり身の迅速さが、「シルヴェストリ」が「シルヴェストリ」たるゆえんであろうか。このスタイルは新旧両盤で顕著に見られる特徴でもある。

気がついたのは、ところどころに「ポルタメント」を薄く掛けていること、この辺り例えば「クーベリック」のように極端にかけるのは、いかがなものかと思うことがあるが、この程度なら非土俗的でアクセサリーとしても程よく聞こえる。

このように新旧の演奏に大差は無いのであるが、この曲の構成など無視して楽章単位で音楽を捉えたようなところがある「やりたい放題の「旧盤」
其れに対して
4つの楽章全体を見据えて、方向性を保ちつつ、その中で美しく響かせるところは寄り美しく、激しいところは寄り激しく、急激な「ルバート」「シンコペーション」を少し押さえ気味にして、ハーモニーを重視した演奏。

新盤の方がステレオ録音の効果もあって細かなニュアンスまで良く出ていて、特に、「裏の音」が良く響くので、「ハーモニー」感がより顕著に出ていて美しく響く。

by noanoa1970 | 2006-01-10 09:31 | 新世界を聴く | Comments(0)