ローエングリンと宗教戦争

掲示板「猫」に「お母さん」という面白げなスレッドが立った。其れに対して「ワーグナーにおける母親不在」という、これも興味深い返信がありそれに刺激されてアレコレ考えるうちに、一つの推理を思いついた。
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの叙事詩「ローエングリン」のもとは「ケルト神話」であるという、確かにローエングリンの父親は「パルジファル」であり、この人とは、キリストの聖杯を守った英雄だ。ケルト神話といってもキリスト教的にモディファイされているから、話はややこしいのだが、ケルト伝説の「アーサー王物語」をキリスト教的解釈で再編したものの中の話である。

ここにこの「ローエングリン」の秘密が隠されているのではないだろうか。
登場人物は
エルザ=ブラバンド家の長女弟にゴットフリートを持つ。
さてこのエルザの両親はこの物語では登場してこない、ブラバンド領主である、父?母?ここもハッキリしないのだが、・・・ここで見過ごせないのは、ブラバンドの家督が長女エルザによって継承されるというところである。ここは推測の域を出ないのだが、エルザの父は入り婿で、キリスト教徒、エルザの母親は代々続く異教徒の名門家系、とすることは出来ないだろうか?
とするとつまりブラバンド家は伝統的には、「母系家族」であるが、ブラバンドで争いが絶えないのは、恐らくキリスト教徒と異教徒であるブラバンドの領主夫妻それぞれの派閥間の抗争によるところであったのではなかろうか。

もう一人の重要な人物は「オルトルート」である。彼女は名門の家系出身でありながら、異教徒で、ゲルマンの神々の名前を大声で呼び叫ぶなど、とても奇異に映る、また「魔女」として扱われ、エルザの弟「ゴットフリート」を「白鳥」に変身させてしまう役割をする。

小生は、この「オルトルートとエルザは異父姉妹か、従姉妹の関係、母親の妹がオルトルートかもしれない。つまり全くの他人ではないように思える。ブラバンド家の家督を女同士で争ったと見てているのだ。オールドアイリッシュバラッドの中にも、姉妹同士の争いの「クルエル・シスター」、跡継ぎの領主の息子ランダルが森の中で恋人に毒を盛られて死んでしまう(実は母親の息子殺し)「ロード・ランダル」というバラッドがあり、いずれも母系社会から父系社会への変化の中での家督継承問題の矛盾をあらわしていると読める。

ローエングリンは異教徒を改宗させ、エルザと結婚することで、領土を奪おうとするための「白鳥の騎士」として、「聖杯王」「パルジファル」の息子というお墨付きと威厳を持って現れる。
エルザに条件をつけて結婚=キリスト教への改宗を迫るが、エルザはその約束を破る=キリスト教への改宗を拒否。
小生はここに異教徒をキリスト教に改宗しようとして、またその領土を奪おうとしてやってきたキリスト教の若き英雄が、その企てに見事に失敗する様が描かれているように思うのだ。

エルザは弟ゴットフリートを殺したという罪で訴えられるのだが、そして物語では「オルトランド」が魔法によって白鳥に変身させたと書かれているが、真相は「弟殺し」が隠れているように思う。ここに母系社会の復権を読み取ることが出来るのだが、流石にキリスト教はそれで終わらない。
白鳥に姿を変えたゴットフリートを元の姿に戻し、ブラバンドの領主は「エルザではなく」弟のゴットフリートである・・・といって去っていくところに、キリスト教の最後の勝利が読み取れ、「異教徒の象徴としてのエルザの死」によってキリスト教社会の到来=ローエングリンによって助けられたことでキリスト教に改宗した弟の領土支配が読み取れるのである。ここに父権社会が確立するのである。

母系社会から父系社会へのキリスト教的価値観による転換が行われるのだが、アイルランドの聖パトリックのように、キリスト教と異教=多神教、自然神信仰=豊曉の神信仰=母神信仰
=母系社会を融和させて、土着民を宗教的融和へと導いていた例があり、その重要な武器はキリスト教の「マリア」信仰ではなかったかと推理される。

自ら台本まで書いたとされるワーグナーが、彼がテキストとしたエッシェンバッハの書物、古代の伝承とキリスト教の関係性をどのように捉えていたか興味が湧くところである。

エルザとローエングリンの、有名な「結婚行進曲」の「運命の動機」は、この結婚が「破局」に終わる運命の象徴なのか、キリスト教と異教が絶対相容れられないことの象徴なのか・・・・ワーグナーが其れを意識してこの曲を作っていたとしたら、彼はやはり天才的「総合芸術化」である。
ニーチェとの親交そして決別、ヒットラーとの係わり合いなど興味は尽きない。
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by noanoa1970 | 2005-09-26 11:46 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)