詩人の夢
高田渡の歌に「深夜」というのがある。
これも山之口獏の詩に曲を付けたものだ。
夢の中の話だが真実味を帯びていて、聴き終わった時には詩人の現実が見えてきて、やるせなさを覚えてしまった。
金に困った男が質屋に向かう。
風呂敷包みに入った質草を見せるが、質屋のおやじは首を縦に振らない。
何度も頼んだ挙句ついに、生き物はお預かりできない、なぜなら食い物を与えなければならないので、お金がかかるから、そういわれてしまう。
そこで目が覚め明かりをつけると、風呂敷包からころがり出たばかりの娘に女房が寝ころんでいる・・という内容だ。
夢の中の夢の話だが、これは悪夢である。
お金のために娘と女房を売り渡さんばかりの現実がそこにある。
家族を守り養うための金でなく、家族を犠牲にまでする男の切羽詰まった様子が窺いしれる。
目が覚めて全て夢だと知った時、詩人は何を思ったのだろう。
詩人はこの後悪夢を追放するために「獏」に頼んだに違いない。
しかし悪夢を2度とみることが無くても、現実は容赦なくそこに存在する。
恐怖は現実の世界の産物なのだ。
高田渡 『獏 詩人・山之口獏をうたう』より佐渡山豊「獏」
by noanoa1970 | 2012-03-23 13:58 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(1)
現実が夢にまで反映される時、その現実は怖ろしいものだといえるでしょうね。現実が素晴らしいものならば、人は夢を見ることもなく熟睡できると思います。