ブログ連動企画第5弾ストコフスキーの水上の音楽聴楽記

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第4弾はabentさんによる「英雄」であった。
ストコにしては平凡だと思っていた小生だが、abendさんの投稿記事によって気付くことが多かった。

さて御指名はヘンデルの組曲(といってよいだろう)「水上の音楽」だ。
中学生時代に初めて聞いたとき、そしてこの名前を知った時、水の上で何しているのだろうと想像し、修学旅行で行った奈良の猿沢の池や、京都の祖母の墓のすぐ近くの広沢の池などで、昔貴族たちが船を出して歌会をしたりして遊行したことを高校生の時知って、イギリスでもそんなことがあるのかと思ったことがあった。

のちにこれは、ヘンデルがジョージ1世即位を祝って、テムズ川でお祝いのセレモニーイベントの際に演奏する目的で作ったとされることがわかった。
背景については種々の説があるようだがここではそれについて言及しない。

ストコフスキーの「水上の音楽」だから、きっとなにか仕掛けてあるだろうという予測で聴いてみた。
予想は当たりであったが、その前にどうしても確認しておかなくてはならないことがあって、それはこの曲の「版」の問題である。

小生はこの曲が好きというわけでなく今まで聞いたものをピックアップすると。
①パイヤール盤
②ブーレーズ盤
③パウムガルトナー盤(混同した記事が今もみられるが、バウムガルトナーではない)
④ベイヌム盤
以上の4種類、それに今回ストコフスキー盤が加わった。

ストコフスキー盤も版が違うが上の4種にも版が違うものがあり、それぞれ聴き味が違うから版はかなり大切だろう。
調べた結果たぶん以下のようであることがわかったが、かなり複雑なので確実かというと少し心配な点はある。
おまけに指揮者独自のものを入れ込んだり、楽器編成を大幅に変えたりして味が違うものになっているから、知っている曲が出てこないと、違う曲ではないかと、思うことさえあるぐらいだ。
最近はこれにピリオドアプローチ盤が出ているから、彼らがどの版を使ったか知るには、クレジットに使用した版を書いてあるのならいいが、やはり実際に聴くしかないだろう。

ストコフスキーの演奏を知る前に、先ずは「版」を片付けなくてはならない。

①は全20曲からなり、3つのユニットで構成されているからおそらく、レートリッヒ版(新ヘンデル全集版)(1962年)だと思う。俗に原典版世も言われる。
②は全20曲からなるが、やはり3つの組曲に分類されているから、①と同じレートリッヒ版
③は7曲で作られ3曲と4曲が、ohne bezeichnung(未定義)となっていて最後の7曲が、グリュザンダー版第19曲COROであるし、未定義曲があるということからすると、パウムガルトナーオリジナル版といえるであろう。
④は3部構成をとってないから、クリュザンダー版(旧ヘンデル全集版)(1886年)で全19曲となっている。
これも原典版と言われるからややこしい。
そのほかにも小生所有にはないが、H.ハーティ版(1920年)、ハレ版(1963年)がある。

以下は推測であるが
1961年4月17日録音であることから、使用できる版は古い順に、クリュザンダー版、H.ハーティ版、レートリッヒ版のいずれかであったろう、しかしストコはRCAヴィクターからの依頼で、この曲をRCAヴィクター交響楽団(シカゴ交響楽団)と録音するが、同時収録曲として「王宮の花火」を入れる要求があったのだろう。
20曲ある原典版ではレコード1枚占有してしまうから、同業のアイルランド出身のハ-ティが演奏会用に作ったのがちょうどよいのだが、アイルランド人で同業のハーティに対抗意識もあったのかイギリス出身のストコフスキーは、録音用にオリジナル版を作ったのではないか。

ここに原典版とストコフスキーの版の違いを示しておこう。

「レートリッヒ版(新ヘンデル全集版)をもとにストコフスキー版がどう編成したのか」
冒頭に⑩という丸付き数字のあるものがストコフスキーが原典版からピックアップしたもの。
番号は演奏順。

以下に挙げた写真はストコフスキー版
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水上の音楽全19曲(カントリーダンスを2曲とすると20曲となる)
第1組曲 ヘ長調 HWV 348(9曲) 
第1曲「序曲(ラルゴ - アレグロ)」
④第2曲「アダージョ・エ・スタッカート」
③第3曲「アレグロ」
②第4曲「アンダンテ」
第5曲(アレグロ・ダ・カーポ」
第6曲「アレグロ」
⑦第7曲「エアー」
第8曲「ブーレ」
⑤第9曲「アレグロ」
⑥第10曲「ホーンパイプ」
①第11曲「メヌエット」

第2組曲 ニ長調 HWV 349(5曲) 
⑧第2曲「アラ・ホーンパイプ」
第3曲「ラントマン」
第4曲「ブーレ」
第5曲「メヌエット」

第3組曲 ト長調 HWV 350(5曲) 
第1曲(メヌエット)
第2曲「リゴードン」
第3曲「メヌエット」
第4曲(アンダンテ)
第5曲「カントリーダンスI・II」


ストコフスキー版で最初に気が付くのは第1曲「序曲」がないことで、あとは順番がかなり違うことだ。
序曲を省いたのは、ハーティ版も同じだが、これも推測だが序曲はフランス式といわれる形式なので、ハーティもストコフスキーも王政復古を思わせるこの曲を嫌ったので、純音楽的な削除ではないと小生は思うがどうだろうか。

さらに緩急が原典版にはあったと思うがストコフスキーは緩急などは無視したように思える。

ハーティが第3組曲からも抜粋しているのに、ストコフスキーは主に第1組曲からで順を入れ替え、そして最後の第8曲に、原典版の第2組曲第2曲「アラ・ホーンパイプ」を持ってきている。
ストコフスキー版の6曲目も「ホーンパイプ」だから、ホーンパイプの音かあるいは使われた旋法が気に入ったのだろう。
しかしかなり編曲してあるから、ホーンパープらしさは主にホルンが受け持ち、素朴な音でなく旋法旋律にとどまったようだ。
これは大編成大ホールでの演奏を考慮すれば当然かもしれない。

ストコフスキーの演奏だが、派手であり、楽しくあり、音の洪水である。
この曲のイベントらしさを、より一層演出したのか、小太鼓がどれよりも活躍し、色彩が豊かで、テムズ川の水の藍、そして空の青がオーケストラの多彩なな色に映えるようだ。

聴きなれたパウムガルトナーの優雅さや 祭祀に当たる敬虔、イングランド、アイルランド王に対する、そしてヘンデルに対する尊崇の念のようなものは感じられない。(小生はパウムガルトナー盤で初聴きした)

これは1つにはテンポであり構成であり、楽器編成の変更追加であろうが、詳しくはまだ断定するには及ばない。

構成、選定した曲、メリハリのある演奏、響きのよい楽器の多様で、ストコフスキーの「水上の音楽」は、ヘンデルの作曲の意図やいきさつから解放され、純音楽的楽しみを与えてくれるから、聴いていてとても楽しいものだった。
オーマンディ盤があれば比較視聴してみたい。

単独で1曲どれかを聞いても、ランダムに聞いても、リピートをかけて聴いても十分堪えうる録音である。
飽きない演奏が一番良い、。

耳になじんだ「序曲」がないにもかかわらず、というか「序曲」=「水上の音楽」というような、変な慣れが染みついていた小生だったが、新鮮で面白く、楽しいものに出会えたような気がする。
同じCDにはいくつかの編曲作品があったが、いずれもストフスキーの真骨頂といえるものばかりであった。

イギリス人とアイルランド人は今でも仲が悪いという、そしてもっともアイルランド魂を持ち、アイルランドのトラッドフォークを引用した曲をたくさん書いているハーティが、なぜヘンデルの作品に版を作ったのか、もちろん帰化してイギリス人となった作曲家ヘンデルを尊敬したのはもちろんであろうが、ヘンデルが作曲した目的の、ジョージ1世がイギリス国王とアイルランド国王を兼ねていたからだと小生は思っている。

演奏の中身については「ただ楽しませてくれた演奏としか、言及のしどころがないので、外側からになってしまい、ストコフスキーの版の狙いまで言及できなかったが、今後の課題としよう。

abend様
お次はシェエラザードはいかがでしょうか。


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by noanoa1970 | 2012-03-07 21:20 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(5)

Commented by yurikamome122 at 2012-03-08 06:58
ご無沙汰しております。この私の青春時代を思い出す演奏に触れて頂けるとは胸が熱くなるのを押さえられません。
ストコフスキーはおもしろですよね。大オーケストラの中でチェンバロがジャラジャラ聞こえたり「王宮」では歓声と花火の音まで入っていたり。正直に言えば実は私には昨今のピリオド系の演奏よりもよっぽどこちらに音楽を感じます。
懐かしい音源です。
Commented by noanoa1970 at 2012-03-08 10:46
yurikamomeさん、こんにちは
ブログ仲間と現在、同じBOX盤でお互いに指名した曲について論評する実験企画を始めており、ストコフスキーを選びました。現在第5弾まで行きました。
どれも面白いのですが論評となると、かなり手ごわいです。
facebookで鎌倉先生と再度友人となりました。
Commented by Abend5522 at 2012-03-08 19:18
sawyer様、こんばんは。
諸版に関するご教示をいただき、大変勉強になりました。
聴いたことはないのですが、ニューヨークPOを振ったモノラル盤では、ハーティ編を使ったようです。新たにステレオ録音を行うに際して、ストコフスキーはその効果が発揮されるためにストコ編を作ったのだと思います。リズミックな響きと流麗なそれのバランスがよく取れたナンバー配置と、それに応じた演奏が、初期のステレオ・サウンドの楽しさを充分に伝えてくれます。演奏に関しては、『王宮の花火の音楽』も同様です。ラストに入る「効果音」は後に付加されたもので、これの無い盤もあるようです。
Commented by noanoa1970 at 2012-03-08 21:00
Abend様、こんばんは
大事な視点を忘れていました。
モノーラル録音からステレオ録音のために効果的な仕掛け。
これぞストコフスキーが」追求してきたことの要素でしたね。
たまたま昨日STAXの装置を引っ張り出して聞いてみると、最初は右chしか聞えないので、ピンジャックがおかしく名ttの課と載っているとやがて左chからも違出てステレオ感があふれる音になりました、しかし左右にわかれるのみならず中心からもきちんと聞こえてくる録音もあり、1950年代からステレオ録音を開始したといわれるRCAヴィクターのリビングステレオはさすがです。
Commented by Abend5522 at 2012-03-08 21:48
sawyer様
書き忘れてしまいました。『シェエラザード』、受けさせていただきます。この有名作品に認識の浅い私ですが、なればこそ意欲も湧こうというものです。
初期のステレオ録音を聴きますと、片チャンネルに音が無い箇所では、無音空間ではなく途絶と感じられることがよくあります。それがわずか数秒間でも、その間だけ当該チャンネルのマイクがオフにされたような感じです。
1940年の『ファンタジア』で9チャンネルステレオ録音という恐るべきことをやったストコフスキーですが、4チャンネル録音では、デッカのフェイズ4が有名ですね。RCAでも4チャンネル録音をしていて、『シェエラザード』もそのひとつです。