アルトゥール・ローターの英雄
ローターは、最近でこそギーゼキングと録音したベートーヴェンのP協奏曲5番が、1945年にもかかわらず、世界初のステレオ録音であると言われるようになり、其の名が知れることになるまでは、コロムビアレコードによる、ほんの一部のクラシックファンしか認知されてなかった指揮者である。
プロフィールをウイキなどで見ても、詳しい情報は未だに少ない状態で、もちろん音盤も数少く、ある大手ショップなどは指揮者検索欄にも記載されてないようだから、未だに認知度は非常に低い。
マイナー演奏ばかり扱っているショップでは、B級演奏家のコーナーに記載されることもあるが、マイナーでしかもB級だから、ひどい扱いを受けている指揮者だ。
NAXOSのオムニバス盤の中に収録されているものが、ディスコグラフィーとして検索できたが、オペラなど伴奏指揮が殆どであり、管弦楽作品は記載されてなかったが、数年前、コロムビアのオイロディスクヴィンテージシリーズの中に、ベートーヴェンの第9とブルッショルリのベートーヴェンP協奏曲3番を伴奏指揮した音源が覆刻発売された。
本日は未だ復刻されてないと思われる、ローターの録音から、ベートーヴェンの「英雄」を聴くことにした。
先週再入手したコロムビア大全集の中に、ベートーヴェンの3..9番があるのは知っていて、9番だけは小生が京都時代に持って行ってたので、廃棄を免れたが、あとはすべて処分されてしまったのだった。
演奏オケが、指揮者が誰だったかという記憶はハッキリしていたが、3番だけはあれこれ考えてもどうしても思いだせなく、再入手できた全集でようやくそれとわかったのが、アルトゥール・ローターがベルリン交響楽団を指揮したものであった。
英雄は、ワルターかコンヴィチュニーを主に聞いたので、ローターの演奏は記憶も殆ど無いぐらい、英雄はあまり聞かなかったのかもしれないが、この指揮者の名前は第9で鮮明に覚えていた。
第9のレコードは必ず2枚組で発売され高額だったので、おいそれと他の指揮者のものに手を出すことはできなかったのでもっぱらローターを聴いていた時代があった。
マーラー、ブルックナーに至っては、発売の数少ないのはもちろんだが、長時間ものは高額になるため、レコード1枚に収録できる、巨人、ロマンティークぐらいしか聴けなかったのだ。
ローターの第9は、世界初CD化という触れ込みでヴィンテージシリーズに登場したものを入手し、何度も聴いていたが、手元に残ったレコード盤も聴いていた。派手さはないものの、聴かせどころを心得たカペルマイスター的手腕を発揮した演奏であった。
記憶に鮮明なのは終楽章、合唱が「フォーゴット」と歌うところ、フォーの後の息継ぎがあってからゴットだと、神様が分断されてしまうのを嫌ったのか、真相はさだかでないが、ローターは手前1呼吸のスラーで歌わせたかったためか、息が切れないようにフォーゴットを短く演奏したのが印象的で、大半の指揮者がフォーとゴットの間に、呼吸を挟んでまで延々と引っ張って(カラヤンはその代表)、神様への尊崇を表現するのに大して、ローターは言葉の連続性を大切にし、「神のために」を分断しないように演奏したと小生は観ている。
またそのことは多分、合唱や声楽陣との長い付き合いや、オペラの指揮によって培われたものではないだろうか。
この演奏録音はオケがベルリン交響楽団となっているが、現在もそうだが、ドイツの戦後のオケ事情はかなり複雑で、ベルリン交響楽団と日本で呼んでいるオケは、東西ベルリンに存在した。
西のベルリン響のほうが新しく1962年、東のベルリン響は1952年の創立だから、本演奏の録音年次第でどちらかは判明しがたくなる。
おそらくこの録音は1960年代前半だから、微妙なところ。
録音状態及び音質は、ややハイよりであるが、この時代にしては最上級である。
録音のレベルからの推測だが、西のベルリン響ではないかと考えられるが、東にもETERNAなど優秀なところがあるし、演奏の水準がすこぶる高いから東のベルリン響かもしれない、というわけで断定はむずかしいが、それはどちらでもさしつかえないことだ。
少し整理だけしておくと、
旧東ベルリンで活動していたベルリン交響楽団(Berliner Sinfonie-Orchester)は、昨年、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(Das Konzerthausorchester Berlin)と改名。1952年に西ベルリンのベルリン・フィルに対抗すべく設立されたオーケストラ。クルト・ザンデルリンクが指揮をしたブラームス全集はこのオケである。現在旧西のベルリン響は、そのままの名称Berliner Symphonikerとなっている。
ローターは、BPOもハンブルグ国立響も振っているから、東西ドイツ分断にもかかわらず、行ったりきたりが割と自由にできたのだろう。
ローターの演奏を結論から言うと、とんでもなく素晴らしい英雄の演奏だといえる。
多分みなさんがお聴きになれば、こんなにも素晴らしい演奏があったことを、そしてこんなにも力のある指揮者が、なぜ認知度が低いのか疑問をもたれることだろう。
細かいところまでキッチリと表現しているが、そのことで音楽がヴィヴィッド感を損なうことがない、それは随所に入れ込んでいるアーティキュレーション。音楽性が豊かで、音楽進行から決して外れることないばかりか、それがあることによって、音楽の質がさらに高まりを見せる、いいければ心地が良いということだが、聞かせどころを十分熟知したいわば職人芸的な手腕だ。
緩急があるのは、この音楽の特徴でもあるから当たり前だが、3楽章極端に落としたテンポで、語尾にはレガート気味のフェルータを入れ込んでいている。
ともすれば嫌味になる事が多いレガートやフェルマータも、ローターはまるで測ったように寸止めして、美しい表現を保ちながら音楽を繋げていく。
1985年生まれだからクレンペラーと同じ年の生まれ、フルヴェンより1つ上、モントゥー、アンセルメ、ワルター、トスカニーニは先輩に当たる。
プロフィールが無いのでなんとも言えないが、歌劇場指揮を長年こなしてきたのではないかとの想像はハズてはいないだろう。
そのせいか指揮法の流行のようなものとはあまり関係なく、誰か1人について指揮を学んだと言うより、基礎は勉強した上で、数々の指揮者の良いところを真似ていったところが有るようだ。
何でも屋的な指揮者と言われることもあったオーマンディのように、その頃発売になった音盤の影響で、勝手にそう思っただけの話しで、実はものすごい実力あるの指揮者であるように、ローターもNAXOSでのディスコグラフィだけで知ることになれば、少し昔のオーマンディと同じような評価になっってしまうことだろう。
しかし現在のオーマンディが見直されているように、ローターもいつかはその時が来る、そう信じるところである。
オケは,思ったよりも、と言うと失礼になるが、ベルリンフィルに勝るとも劣ることがないぐらいに、技術はしっかりしているし、何しろ響きが美しい。
レコード盤のノイズが少し激しいので、少ない所で聞いてみると、1つの楽器のように聞こえるバイオリン、チェロの弦楽器群、金管はホルンのごくごく小さな♭気味の仄暗いトーン、木管ではオーボエ、クラリネットが特にすばらしい。
アインザッツがビシーっと合っているのが爽快だし、アウフタクト入りでは特にそのことがオケの実力、全員の水準がすごく高いレベルにあることをあらわすようだ。
しかし、ただ上手なだけでなく、ローターの細かいアーティキュレーションに、諸手を上げて賛同し、オケ全体が、喜んで演奏するような一体感を感じさせるものだから、全部通しで聞いてしまったほど。
つくづく2楽章途中でB面に移らざるを得ないLPレコードの弱点をおもいしった。
調べは完全についてはいないから、もしかすると、CD復刻されているかもしれないが、もしそうであれば、CDも入手したい演奏である。
by noanoa1970 | 2011-10-22 17:57 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(10)
ローターは聴いたことのない指揮者でした。キング世界の名曲1000シリーズに、ベルリン市立歌劇場Oを振った何枚かがあったのと、ギーぜキングとの世界初ステレオ録音の『皇帝』が発売された時に、音楽雑誌で騒がれたことを憶えています。
ニコニコ動画に、ジークフリート・ボリスと組んだブゾーニのヴァイオリン協奏曲があったので聴いてみました。1944.7.21のベルリンでの録音です。素晴らしかったですね。ボリスの卓越した美音とテクニックを、コントラストのはっきりした音運びで支えています。
ベートーヴェンの演奏、聴いてみたいですね。
ご存知と思いますが、ボリスはフリッツ・リーガーとのベト協奏曲がヴィンテージシリーズで発売となっています。小生は未入手ですのでいずれはと思っています。
ローターとボリスのブゾーニは珍しいですね。存在すら聞いたことが無いですから、ご教示のニコニコで試聴します。
NAXOSヒストリカルにも、ベルリン市立歌劇場Oを振ったオペラ抜粋があったように思いますが、同じ音源でしょうね。
ディスカウのバックなどもあったようで、かなり活躍したように思いますが、交響曲、管弦楽のたぐいが少ないせいか、音盤にしなかったのが、実力がありながら知られざる指揮者になってしまった理由かもしれません。
HMVでローターの録音を見ていて想い出したのですが、クーレンカンプと組んでベルリン・ドイツ歌劇場Oを指揮したチャイ協のLPを持っていました。ロンドン不滅の名盤シリーズです。CDが入手できます。LPには、モーツァルトの5番もありました。HMVで入手できるCDには、『ホフマン物語』、『道化師』、『真珠採り』といった歌劇のドイツ語版がありますね。
ロンドン不滅の名盤、これも懐かしいシリーズデスね。」モノーラル録音がんほとんどでしたが、すごい演奏があつまっていました。レコード板の厚さも重量級でした。ベームVPOのベト8&未完成が初入手でした。父クライバー、メンゲルベルグ、クナ、シューリヒト、クラウス、バックハウスと言った一流の演奏ばかりの好企画シリーズでした。今思えばぜんぶ集めておきたかったものです。くーレンカンプ、シゲッティもあったように記憶しますが、ローターノ伴奏があったとは・・・この人意外なほど有名なソリストとと競演しているようです。
ローター、やはり歌劇場で叩き上げたマイスターなのでしょう。
どうも小生はそういう出自の指揮者が結果として好きなようです。
なにか違うのだと思いますが、「何か」が何であるのか、まだ確かなものは掴めないのですが。
ロンドン不滅の名盤は、MZシリーズと言っていました。ワルター/VPOの『大地の歌』を買ったのもこのシリーズでした。
歌劇場叩き上げの指揮者は、歌手とオケの調整という修羅場で鍛えられて来た存在ですね。オケは長年の間に手兵となり、合唱団は別に指揮者がいますが、歌手は演目によっては勿論のこと、同じ演目でも次から次へと替わり、同一公演でもダブルキャストであったりで、自己主張の強いプリマ・ドンナやプリモ・ウォーモやベテラン・バイプレイヤーとわたりあい、また若手歌手には支えとなってやったりしなければなりません。リハーサル時からトラブルが起こることもありますし、そういう修羅場経験の積み重ねが、言葉ではなかなか形容し難い「何か」を叩き込むのだと思います。
オペラは「演劇」「歌唱」ですから公演なり演奏会は大変にロードが係ることでしょう。プレーイングマネージャーでもあるカペルマイスターともなると、会社の重役同様人事から渉外から、多分我々の予期しないような仕事の責任者ですから、気苦労が絶えませんね。オケと違ってソリストはひと筋縄には行きませんから、音楽的に合わせるのも大変でしょう。ワンマンに振るまえる人はともかく、信頼関係、人心掌握術も必要ですし、何よりも音楽が認められなくてはなりませんから、いつでもどこでも調不調ない、堅実さが求めれるのと同時に、飽きられないような工夫も必要でしょう。
物事がよくわかった苦労人、派手さはないが地道な努力によって得た実力の持ち主、頑固な所があって妥協しないから、組織の論理と対決することが何かとある人物。たまにサラリーマンにも、こんな実務の男いますね。
ローターは、ハンス・リヒターやフェリックス・モットルの下でバイロイトのアシスタントを務めたのが活動の始まりだったようですね。しかし、バイロイト音楽祭の記録ページを見ても、彼は一度も公演を指揮していません。アシスタントを務めていたのは、コジマ・ワーグナー独裁時代のバイロイトですが、その後はデッサウ市立歌劇場へ移ったということなので、コジマの嫁ヴィニフレートの独裁時代にバイロイトにいなかったのは良かったかも知れませんね。
ベルリン在住のよもやまと申します。
いつも興味深く拝見させていただいておりました。
さて、私が昨日ベルリンの骨董屋で購入したレコードの中にローターの第9が混ざっておりました。
良く見るとベルリン交響楽団との録音ではなく、ハンブルク国立響とのものでした。
レーベルはOperaですが、クラブ限定盤のようで、録音年代などの詳細は一切かかれていないのですが、演奏もこれがまた実にこなれていて素晴らしいのです。なかなか録音状態も良く、楽しんでおりますが、こちらの第9もLP1枚に収められており、第3楽章の途中でB面に移行しなくてはなりません・・・^^;
”オケ全体が、喜んで演奏するような一体感”とかかれておりますが、こちらの演奏もそのような一体感を感じさせるものです。
きっとローターの人柄や仕事ぶりがそうさせるものだったのでしょうね。マイナーな指揮者・演奏者も聞いてみると面白いものですね。
オペラ原盤をコロンビアが国内販売したものです。オケも一緒なので同じ音源ですね。