アイーンではない、アインが重要なのだ

演奏上で使われる言葉に、アインザッツ(ドイツ語: Einsatz)というものがある。

休止後における歌い始め、奏し始めの瞬間の出だしを揃えると言う意味だが、視聴者側では、もっぱら一番気になるところの、その音楽の開始冒頭がキチンと揃っているかどうかで使われることが多いようだ。

従来の意味は「投入」であるが、音楽用語として使われるようになったと、ウイキで示されてあった。

音楽に使われるアイン(EIN)が頭にくる単語で、アインガング(Eingang:入口)という余り聞き慣れない物があって、ドイツ語がさっぱりな小生は苦労するのだが、特殊な単語なのか、音楽上で使用される例も多くはないが、WEBで調べようとしてもなかなかヒットしない単語であった。

カデンツァは協奏曲などで、終止の直前に使われる即興的な演奏で、ソリストの腕の見せ所でもあるが、アインガングは音楽の中間で使用される即興で、目的は次のフレーズにつながる導入の仕掛けと言えるだろう。

アインガングはカデンツァ同様、作曲者自身のものもあれば、そうでないものもあるということで、モーツァルトのピアノ協奏曲では、カデンツァはもちろん複数のアインガングが用いらていることがあるということで、なるほど中間で其れらしき音が聞こえてきた経験はあるが、それをアインガングということも、他の呼び名も知らず、一種の遊びか洒落だとしか思ってなかった。

アインガングの存在は、音楽に一味も二味も変化が生まれることに貢献し、アッと思いながら次に続く音楽への期待が高まるのに一役買っているような感がある。

小生がアインガングという聞きなれない言葉を知ったのは、かつてカデンツァについて情報を収集していたときのことであったが、記されていた難しい解説はさておき、簡単に、音楽の途中に挿入されるミニカデンツァといって良いのだと思う。

其れと平行して、気になり始めたのは、「アイン:EIN」が頭につくドイツ語のこと。
音楽用語として多そうな予感がしたから、他にはどのようなものがあるかということで、調べてみると、これがとんでもなく奥が深いことに気がつくことになった。

ドイツ語がサッパリな小生の、知らぬガゆえの大胆すぎる試みであったと、反省することしばし。

音階のドイツ語表現か数字の1.2.3、ベト第9の一部分程度しか知らない小生だが、「EIN」は「EINS」と関係有るだろうぐらいはなんとか推測できるが、1から10の数字をドイツ語でとなると、もう完全にお手上げだ。
簡単であろうと推測される、数字の「555」を言い表すには、「fünfhundertfünfundfünzig」と、とても覚えられないだろうし、発音しにくいだろうと思われることを口に出さなければならないと言うから、いまさら覚える気にはならないし、到底困難である。

「EIN」は推測したように、「1」を意味する言葉でもあったがしかし、それ以上に重要な前綴と定冠詞の役目をするし、これが前につく単語がやたら多いことが分かった。

WEB上の記述を基にして、今後のために少しだけ整理しておくと、
まず、「ein-(分離):基本的には「中に」を表す」とある。

中へ、開始、球心、獲得・積重と使われ方が4つに分類され、それぞれ
中へ:| 内部へ | 埋め合わせ・調節 | 順応・熟知 | 教え込み・思い込み | 提示・持ち込み | 付与/受容 | 包囲 | 固定 |
開始:| 開始・出現 | 慣らし |
球心:| 照準・球心 | 漬け込み | 萎縮・制限・枯渇 | 眠り込み | 崩壊・破壊 |(球心は求心の誤記かも)
獲得・積重:| 背負い込み・獲得 | 4格名詞への付与 |

以上のように細分化されるようであった。

音楽に関係ありそうなものをピックアップすると、
einstimmen:(楽器)を調律するは「中へ」の分類。
einsetzen:始まる、起こるは、「開始」の分類だ。
einfangen:捕まえる、表現するは「獲得・積重」の分類となる。
einschränken:を制限する、抑える、減らすは照準・球心の「萎縮・制限・枯渇」に分類される。

EINがつく言葉が、到底数え切れないほど無数に有ったのにはびっくりしたが、それだけに重要なものであることも想像できる。

奥が深すぎる「EIN」での遊びは、遊びで無くなる危険性があるから、この辺でやめておくことにした。

ほんの少し:Nur ein kleinesのドイツ語のお勉強でした。

ちなみにEingang:入口は、「中へ」に分類されると思われるが、サンプルが多すぎて発見できなかった。

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by noanoa1970 | 2011-10-17 00:01 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(10)

Commented by Abend at 2011-10-17 20:44 x
sawyer様、こんばんは。
Gangは英語の"ギャング"と同じで、「同道」・「行列」・「通り道」などの意味があります。モーツァルトの名のWolfganngは、「狼の同道者」(勇敢な男の表現)という意味ですね。
Eingangは、「同道・行列・行進の始まるところ」=「入口」ということだと思います。音楽用語としては「導入部」とされていますが、「序奏」や「前奏」はドイツ語でEinleitungですから、音楽でのEingangは、「契機」とか「伏線」といった理解でいいのではないかと私は思います。
Commented by noanoa1970 at 2011-10-17 22:47
Abend さまこんばんは
さすがにAbend さま、言葉に造詣が深いですね。
大変説得力があります。
>Eingangは、「契機」とか「伏線」といった理解でいいのではないかと・・・
実に明快な概念です。「橋渡し」などよりも完全にいいですね。
「伏線」は、逆カデンツァのようで、特によろしいと思います。
ちなみに、カデンツァはレヴューで、アインガングはプレヴューのようなものとするのも悪くないと思います。
Commented by cyubaki3 at 2011-10-17 22:53 x
EINは男性名詞、中性名詞の不定冠詞でもあります。女性名詞の不定冠詞はEINEで、アイネ・クライネ・ナハト・ムジークのアイネです。
Commented by Abend at 2011-10-18 00:13 x
sawyer様、ありがとうございます。
ソナタ形式では、第一主題から第二主題の間に経過部が置かれますが、単に転調などの属性変化を行うだけだった古典的な経過部は、モーツァルトやベートーヴェンになると経過部の中に次への伏線が張られるようになって来ますね。「区切れ構造」から「被り構造」への進展といいますか、聴く側に「予測」をさせる要素が作られるようになるわけです。モーツァルトやベートーヴェンの作品を聴いていて立体的な感じがするのは、これによるものではないかと思います。そして、この予測要素が自立して行く過程が、イデーフィックスやライトモティーフであるとも思うのですが、言い過ぎでしょうか。
Commented by noanoa1970 at 2011-10-18 06:36
Abendさま
おはようございます。
>聴く側に「予測」をさせる要素が作られるようになるわけです。
このポイントとしては、聴衆の市民化、大衆化が要因のひとつではないでしょうか。
また1曲が長くなっていく傾向にも関係がるのかもしれません。
>「区切れ構造」から「被り構造」への進展
非常に面白い(失礼)表現です。研究のタイトルになりますね。
「被り構造」をソナタ形式の崩壊にいたるものと捉えるとすると、其の中間あるいは過渡期と言ったほうが良いかも知れませんが、割りと長く続いたように思います。まさに「形式」と「内容」が一致することが求められた時代背景と言うことでしょうか。
しかしやがて、ソナタ形式が熟しきってしまうと、予測不可能な疎外の音楽の時代がやってきます。
ベートーヴェンの素晴らしいのは、時代に先駆けて形式から脱するような素地を持った音楽を作ったと言うことだと思います。
ベートーヴェンを革命的だと小生が思う所以です。
Commented by noanoa1970 at 2011-10-18 06:41
続きです
それについての理論展開は出来ませんが、ベルリオーズに代表されるイデーフィックスとワーグナーに見られるライトモチーフは、根本的に性格が違うように小生には思えます。しかし今のところは勘だけの状態です。「幻想交響曲」でいうと、ストーリーが連続の上にあり、表現したいことが分かり易いのに対し、ワーグナーの「指輪」では、場面によって内容が全く違うところや、場面内でも違うストーリーが並列進行するようなところがありますから、オペラといえども理解が難しいので、ライトモチーフによって、聴衆はこれから始まる物語が、なにに関係するところなのかが予想可能になり、物語が理解し易くなると言えるのではないでしょうか。登場人物が表現こそしないが、なにを思っているのかなども、バックで奏でられるライトモーチーフによって分かろうと言うもの。ベルリオーズの場合は、ソナタ形式と言う形式があって初めてストーリー性が生き印象に残る、一種の循環形式と思うことがあるのですが、ワーグナーの場合は、もはや便りにすべき形式が破壊状態にあり、しかも音楽自体が非常に長大になっていったので、第2第3の聴衆との疎外があったというのも背景にあるかもしれません。
Commented by noanoa1970 at 2011-10-18 06:47
Abend さまご指摘の「予測させる」で、両者に共通項があるのは明快な事実でしょう。

アイネクライネ・・・実は昨夜の寝床で、そういえばアイネはEINと関係有るだろうなと思ったところでした。
ご教示ありがとうございます。
ドイツ語勉強しておけばよかったとつくづく思っています。
第2外国語に仏語を選択したのはいいところもないではないですが、こと音楽上では失敗でした。
Commented by Abend at 2011-10-18 21:36 x
sawyer様、こんばんは。
男性名詞の場合はein・eines・einem・einenと、主格・属格・与格・対格が、中性名詞・女性名詞の場合はまた違うという風に、極めて特殊な言語である日本語を用いる我々にとって、外国語を学ぶのは難しいことですね。ドイツ語の格は4つですが、大学の2回生でサンスクリット文法を学んだ時は、格が8つもあり、数も単数・複数以外に両数というものがあったりで辟易しました。語学は継続してやらねば駄目で、私の外国語は佛教や音楽用語を単語レベルで少し知っている程度です。岩波新書に渡辺照宏の『外国語の学び方』というのがあります。著者は佛教学者ですが、入院中にオペラ歌手志望の看護師にイタリア語を教えたというエピソードがあります。
Commented by noanoa1970 at 2011-10-18 23:38
Abend さまこんばんは
男女での名詞の違いや冠詞の違いは、形式だから守られてきたと言うより、発音が其のほうが綺麗だから、リズム感が出て言いやすいから守られて長生きしてきたように考えることがあります。発音の綺麗でないものや言いにくいもの、長いものは、其れが正確に表している正しい言い方と言うことには関係なしに葬り去られる傾向は、日本だけではないように思うのですが・・・
Commented by noanoa1970 at 2011-10-18 23:44
cyubaki3さん、大変失礼いたしました。
勘違いしてAbendさんのコメント返し欄に書き込んでいたこと、たった今気がつきました。
改めましてこちらにコピーしておきます。

アイネクライネ・・・実は昨夜の寝床で、そういえばアイネはEINと関係有るだろうなと思ったところでした。
ご教示ありがとうございます。
ドイツ語勉強しておけばよかったとつくづく思っています。
第2外国語に仏語を選択したのはいいところもないではないですが、こと音楽上では失敗でした。