ギトリスのクライスラー

昨夜録画しておいた、ヴェルビエ音楽祭2011を少しだけだが観た。

その中で特に印象が強かったのが、ギトリスだ。

小生は彼の演奏録音も生演奏も見聴きたことはない。

随分昔、アチコチで話題になったのは知っていたが、縁がなかったのだろう、全く聽かなかった演奏家の一人である。

姿を見て驚いたのは、もうかなり高齢になっていた事。
80歳はとっくに超えているだろうと思い、調べると、1922年8月22日生まれとあり、偶然にも明日で90歳の誕生日を迎えることにな」る、現役最高齢のヴァイオリニストであることが分かった。

d0063263_1404634.jpg
ギトリスが若手中堅ベテランの女性伴奏者と共演したものの中、ユジャ・ワンもブニアティシヴィリも良かったが、なんといってもベテラン、アルゲリッチとの共演が素晴らしかった。

他の二人が、ギトリスの独特な歌いまわしが理解出来ないまま、曲が終わってしまった感があるのに、最初こそ手間取った様子のアルゲリッチだったが、すぐにギトリスの独創的シンコペによる歌いまわしを理解し、お互いが個性の強いどうしにもかかわらず、昔から馴染んできたような優しい表情の音楽を創ってくれた。

普段は滅多に聞くことがない、クライスラーの有名曲、今まで誰もあのような過度とも思えるシンコペ演奏はしなかったであろう、ギトリスの表現にもかかわらず、新鮮であることは勿論のこと、少し間違えれば、嫌味とも取れるようなギリギリまでデフォルメした表現に、圧倒され思わず聴き入ってしまった。

技術的なことは避けたいが、最初は年齢が年齢だけに、音程が不安定なのだと思っていたが、どうも違っていて、ギトリスは、わざと少し外れかけギリギリの音程を出しているらしいと気がついたが、それが受け手に与える効果は、非安定と不安つまりsuspenseだが、それをそのまま放置しない音楽になっているのは、ピアノ伴奏に負う所が大きいのではないだろうか。

d0063263_1411783.jpg
ヴァイオリンの音色は、ファルセットヴォイスを思わすように濡れていて、フランコベルギー学派に通ずるものを感じるが、演奏スタイルこそ全く違えど、往年のシゲティが醸しだす音楽の雰囲気と共通するものが有ったように思う。。

円熟期を遥に過ぎた、老ヴァイオリニストがたどり着いた心境が感じられるような、優しく柔らかな暖かな音色であった。

若い頃のギトリスも聽かなくてはと言う、欲求にも惹かれる一時であった。
表現法にはかなりの変化が有ったのではないかと思わせるほど、今のロマンチシズムと神秘性を持ち合わせたような演奏は、ギトリスの心臓の鼓動、そして呼吸から湧いて出ているかのようだから、それとは異なるはずの、壮齢期熟年期のギトリスも是非聴いてみたいものだ。

こういう演奏は、録音されたもので、繰り返し聞けるものではなく、一期一会の演奏なのかも知れないと思った。

美しいロスマリン(クライスラー)
(ピアノ)マルタ・アルゲリッチ
(バイオリン)イヴリー・ギトリス

愛の悲しみ(クライスラー)
(ピアノ)マルタ・アルゲリッチ
(バイオリン)イヴリー・ギトリス

[PR]

by noanoa1970 | 2011-08-21 09:05 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(4)

Commented by ベイ at 2011-08-21 22:00 x
noanoaさま
ギトリスは味のある演奏で、若い女性ピアニストに囲まれてご機嫌でしたね。彼は昔から自由奔放なヴァイオリンを弾いていた印象があります。アルゲリッチは別格ですね。伴奏をはるかに超えた音楽の巫女、女神みたいです。
Commented by noanoa1970 at 2011-08-21 23:30
ベイ さんこんばんは
観ましたか、次々と大勢登場する音楽家の、あのような音楽祭も良いものですね。

ギトリスを尊敬しているのでしょうか、笑ったところを見るたことがないアルゲリッチが、優しく微笑んでいたのが印象的でした。

伴奏でも隠れ自己主張をするアルゲリッチは、やはり天才といっていいでしょう。

アルゲリッチのピアノデュオは、フレーレの時もそうでしたが、今回も協奏でなく競奏という感じでした。

キーシンは過去あまり聴いていませんが、ブラームスのピアノ四重奏では、いい感じでした。

ブニアティシヴィリのラフマニノフ3番は、よく弾いたとは思うが、オケとのバランスがあまりよくないようでした。
ネーメ・ヤルヴィに問題があるのだろうか、リハが足りなかったのだろうか。オケの音が各所で濁っていて、見通しが悪い印象でした。
Commented by ベイ at 2011-08-22 11:19 x
noanoaさん
ブニアティシヴィリはソニー・クラシカルが押しているんですが、ラフマニノフとそのあとのリストもテクニックはあっても力強さと訴えてくるものがなく、期待はずれでした。ラフマはオーケストラも学生オケで、編成も小さく迫力不足でした。キーシンは巨匠に向かいつつあると思います。11月に協奏曲を生で聴きますので、mixiの日記に感想を書きます。
Commented by noanoa1970 at 2011-08-22 17:03
ベイさん
同じような感想ですね。
若手の売りはテクニックだと勘違いしている所があるようです。
彼女はピアニスト出身の指揮者、例えばバレンボイムと共演して、必要なことを学ぶべきかも知れませんね。
キーシンの感想楽しみにしています。