ベルリオーズのオペラ「トロイ人」から歴史を学ぶ

NHKBSは、オペラの放映をかなり積極的に行っているが、その中でもとりわけ珍しいものが登場した。

ベルリオーズのオペラ自体が珍しいが、中でもギリシャローマ時代の神話的な歴史を題材にした「トロア人」は、今ではCPUウイルスで有名になった感のある「トロイの木馬」によって、滅んでしまったトロアの悲劇と、その後の末裔の物語だ。

ヴェルギリウスの叙事詩「アエネアス」をもとに、ベルリオーズ自らが台本を作ったといわれる。

「トロイ戦争」は、ヘーラー、アテナー、ポセイドンがギリシア側に、アポロン、アルテミス、アレース、アプロディテがトロイア側に味方したという、神々の戦争でもある。

もともとはほんの些細なこと、結婚式に出席するしないでもめたことが原因で、ギリシャの神々が2つに分かれ戦うことになり、10年以上にもわたる戦争の結末と、その後のトロイの末裔が辿る物語が、「トロア人」の題材となった。

アカイア=ギリシャの英雄アキレスの話や、R・シュトラウスがオペラにした「エレクトラ」の父親、総大将アガメンノンの活躍があったが、戦争は10年以上続き末期を迎えた頃、ギリシャの知将オデッセウスが画策した「トロイの木馬」作戦が成功し、イーリアス=トロアは陥落した。

ホメロスの「イリアス」はトロイ戦争におけるアキレウスとアガメムノーンの確執や、アキレスとイーリアス=トロイの英雄ヘクトールの戦いなどを描いたもの、そして「オデュッセイア」は、トロイ戦争終了後オデッセウスが故郷に帰還するまでの冒険活劇であり、いずれもトロイ戦争を媒介としたものだ。

モンテヴェルディは「ウリッセの帰還」を作ったが、これもホメロスの「オデッセイア」を題材としたもので、ウリッセはイタリア語でオデッセイアであるから、「オデッセイアの帰還」といってもよい、トロイ戦争が終結した後の、オデッセイアの故郷への道においての冒険劇である。

ギリシャ神話ローマ神話の神々の名前は、同じ神でも読み方が違うから、整理しないと混乱する。
また地名の読みも違っているから、なお混乱するが、ちなみに、ホメロスのイリアスとは、イリオン(トロイアの別名)の歌のことである。

ヴェルギリウスの「アエネアス」は、ホメロスの「イリアス」から影響を受けて造られたもので、陥落したトロイアの王子でウェヌスの息子でもあるアエネアスが、陥落したトロイを脱出しカルタゴに逃れて、イタリアでローマを起こすまでの話である。

この時のカルタゴの女王が「ディド」で、ヘンリーパーセルがウェルギリウスの「アエネアス」を題材に、「ディドとアエネアス」という恋愛悲劇をオペラにしている。

モーツァルトの歌劇の「イドメネオ」は、トロイ戦争でギリシャ側についたクレタの武勲王だが、アエアネスには勝つ事が出来なかったという。
イドメネオは、帰国途中の航海で激しい嵐に遭い、クレタに着いて最初に会った人間を、ポセイドン神に捧げると約束するが、最初にあった人間とは、我が息子であったが、泣く泣く約束を果たすことになった人物でもある。

戦争後故郷に凱旋するための、帰還物語は、その道中の苦労話とともに、無くてはならない話であったようだ。

これらのオペラや源の文学作品は、トロイ」戦争、つまりホメロスによって描かれたのものや、その影響を受けた作品を題材にしていることが非常に多いが、これは芸術家の感性を刺激する何かがありそうだ。

神話の世界の話といわれてきたが、シュリーマンによって真実である証拠が示されたのは有名な話で、小生もその昔はシュリーマンにあこがれ、考古学を学ぼうとしたことがあった。

しかし、これらのオペラ作品は、いずれもがシュリーマン以前に作られたもので、当時はまだ神話の世界だったから、ギリシャローマの神話の世界に憧れを持つようになった、ロマン派以外のバロックや古典時代においても、興味の対象であったようだ。

もの珍しいよその国の未知の神話を題材した作品を造る事によってによって、聴衆の人気を集めようとしたのかもしれない。

オペラを通じて歴史を知るということは、結構あるものだが、作品群が戦争という1つの事件周辺の話で関連することは、そうあるものではない。

そのことに関する文献や資料で知識を得た後で、これらのオペラを全部見ると、単独の、しかもオペラだけの世界での見方とくらべると、全てにおいて相当変わってくるから、このような総合把握的見方も面白いものである。

ベルリオーズの「トロイの人」は、その中でも「木馬」「トロイ陥落」という物語と、陥落後カルタゴに逃れ、女王ディドと恋愛関係となったが、最後には悲劇となるエアネスまでの超大作オペラで、4時間もかかるが、飽きることがないオペラであった。

しかし流石はベルリオーズ、音楽の起伏や素晴らしいメロディ、ダイナミクスもふんだんで、4時間でも飽きることがない。

合唱の不思議な感覚は、時代性を超越した、ベルリオーズの前衛性が発揮されたように思うことしばし。

兵士たちの衣装は、まるでアイスホッケーのユニフォームのようで、日の丸が大きく胸に書かれていたのが印象的だが、この種の世界にはどうもシックリ来ないと思うのが小生の感想だ。

ピットのゲルギエフが少し映ることがあったが、タクトを使用しないが、非常に丁寧で細かい指揮をする人のようだ。

歴史を題材にしたオペラ、小生が特に好むもので、恋愛物語はすぐに飽きてしまうが、ボリスやイーゴリ公もとても面白く観た。

マリインスキー歌劇場管弦楽団&合唱団
トロイアの人々  エクトール・ベルリオーズ(1803-1869) 全5幕コンサート形式
第一部 トロイアの陥落
第二部 カルタゴのトロイア人

台本 エクトール・ベルリオーズ
指揮 ワレリー・ゲルギエフ
エネ  セルゲイ・セミシュクール
カサンドル  ムラーダ・フドレイ
ディドン エカテリーナ・セメンチュク
アンナ ズラータ・ブリチョーワ
コレープ アレクセイ・マールコフ
アスカーニュ オクサナ・シローワ
ナルバル ユーリー・ヴォロパエフ
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by noanoa1970 | 2011-06-02 11:22 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)