ドロルツSQを聴く

ドヴォルザークといえば、日本人好みの有名曲が多いが、弦楽四重奏12番ヘ長調 「アメリカ」もご多分に漏れないことだろう。

小生はもちろん気に入っており、とりわけこの曲の演奏を、ヤナーチェクSQの1963年5月DECCA録音そして同じ年6月のDG録音の音盤が特にお気に入りだ。(DECCA盤とDG盤は同じ音源かもしれない)

他には、ウィーンコンツェルトハウスSQや50年代にスプラフォン録音された初期スメタナSQ,ブラフSQ、さらには80年代のヤナーチェクSQ、デジタル時代のスメタナSQなどを聴いている。

それで今のところ最もお気に入りの演奏が、ヤナーチェクSQのDECCA録音(あるいはDG録音)なのだ。

ヤナーチェクSQの、「アメリカ」の演奏がなぜお気に入りかは、以前ブログ記事「新世界」の愛聴盤・・・「フランツ・コンヴィチュニー」の中で述べた。

全てのSQを聴いたわけではないから、断定などは到底出来ぬことだが、小生が今まで聴いた演奏の中では、ヤナーチェクSQがよい。

良い点は数々あるが、中でも代表的なものは、1楽章出る第2主題の2小節目・・これは楽譜通りに弾いている演奏はほとんどないのだが、それだけに表現力の見せ所でもあって、テンポ・アゴーギグも含め、そのこなし方、歌いまわしが小生の感性にピッタリマッチングしているからだ。
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これを聴いてしまうと、多くの方が評価するスメタナSQでは物足りないし、しっくりこない。
それに1987年スプラフォン録音のスメタナSQの演奏は、どうも音楽が弛緩しているように聴こえるから、60年代そして多分メンバーが交代していると思われる、80年代の録音と比較してさえ、ヤナーチェクSQに軍備を揚げることになる。

しかし人間は欲深いもので、ヤナーチェクSQで満足しているにもかかわらず、もっと他によい演奏録音がありはいないか・・・など考えるのである。

こういう欲求が、音盤をむやみに増やしていく原因なのだとは思うが、好きな曲ほどその傾向が強いようで、多分どこまで行っても完全な満足などはあり得ないのだろう。

そんな折、音楽を本格的に聴き始め、レコ芸を読み漁っていた時代に、廉価盤で発売されていたが、あの時代、廉価盤になる演奏家は1流ではないから、優れた演奏ではない、そんな意識を持地つつ、それでも経済的理由で、廉価版盤を購入する機会は少なくなかった。

今思えば、そんなことは絶対にないわけで、廉価版の常連演奏家の演奏に、素晴らしいものが多い事実は確認できることである。

「高価格の商品が良い商品である」、という間違った概念が植えつけられたのは、幼年期実際に、戦後の復興期の製品の洗礼を受けるとともに、その裏返しとして、舶来製品を崇拝するといういわば神話を自分の中に形成したからだと思う。

舶来品嗜好という一種のブランド志向は、いまだに心の片隅に存在する。

ドロルツSQの名前は、廉価版で知ることになるのだが、室内楽にはそれほど興味がなかったころであり、もっぱら大編成の楽曲に目が行っていた時期でもあったし、超有名弦楽四重奏曲の一部は、大全集の中に、おもにウイーンコンツェルトハウスSQの演奏があったから、触手が伸びるはずもなく、ただ名前を知るだけにとどまった。

どうしたことか、室内楽ユニットの情報は、今も昔も満足するほどには充実していない。

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少ない情報の中から、ようやくドロルツSQが、ベルリンフィルメンバーによって構成されたユニットであることを知り、どうも小生の好きな室内楽ユニットが、何故かベルリンフィルのメンバーから構成されているものが多いのでは、と思い始めた。

ベルリンフィルハーモニー八重奏団しかりベルリンフィル弦楽四重奏団、フィルハーモニアSQ、ブランディスSQしかり、未聴のユニットも数多い。
そして知らなかったが、このドロルツSQもそうである。

オーケストラのコンマスが中心となって、室内楽ユニットを形成する例は他にも多いが、ベルリンフィルの場合は、コンマスにとどまらず、首席でさえない人が頭を務めるユニットがあり、それも全て揚げられないほど沢山存在する。

そしてこのことはやはり、ベルリンフィルそのものの実力を、端的に表すものであるように思う。

素性が何かを知らずに聴いて、素晴らしいと思ったブランディスSQが、ベルリンフィルメンバーによるユニットだったこと。

ベルリンフィルメンバーによる室内楽ユニットが素晴らしい演奏をすること、考えられる理由は、緻密なアンサンブルとしっかりとした構成力、そして何よりもユニット個々人の腕前が相当凄いことにある。

さらに忘れてはならないのがユニット個々人の信頼関係、そして多分オーケストラサイドも、室内楽ユニットを形成することを、推進しているのではないかと推察できる。

ユニットでの演奏もオケとしての演奏においても、相乗効果を惹起するからだろう。

小生はオケのメンバー出身のユニット、しかもベルリンフィルのメンバーというところに、かれらの演奏スタイルの特徴の一旦があるのではないかと思っている。

手練手管をあまり使わない演奏方法が信条のような、ドロルツSQの「アメリカ」は、基本的には早めのテンポで素直に進んでいき、ところどころでアッチェレランドおよびクレッシェンド・エ・ディミヌエンドがあるが、それはごくわずかなもの。

ヤナーチェクSQのような方言は一切使用せず、民族色濃い表現は全くしていない。
しかし小生が好きな1楽章第2主題の表現は、演奏方法はまったく異なるのだが、ヤナーチェクSQの方言と同じレベルで、心に響いてくるものがある。

ドヴォルザーク本国のユニットでなく、米・西欧のユニットで、方言ライクを使わずにここまでの表現をなしえたSQは、ドロルツSQを置いてないだろう・・・そんな印象を強く持つ演奏であった。

これでお国のユニット以外の演奏で、素晴らしいと小生が自信を持って言える「アメリカ」の演奏が、ようやく発見できることとなった。

このCDにはスメタナの「わが生涯」がカップリングされているが、本命とされるヤナーチェクSQのそれと全く遜色ないばかりか、こちらのほうがより劇的で、音魂溢れる…これは名演といってよいのだと思う。

個々人の技量は素晴らしく、息がピタリと合っていて、ほぼ完全といえるこのような演奏が、その昔は廉価盤であった。

今回復刻されなかったら、永久に闇の向こうに消えていただろう。
素晴らしい演奏なのに、葬り去られたものがある一方、演奏の質を問わず、何でもかんでも音源さえ見つかれば、復刻して安価な価格で売りさばこうとする。(そんなことをやっても売れないと思うのだが)

こういうことがクラシック音盤業界をダメにしているのだろう。
優れたフィルター機能の復権を要求したいが、フィルターになれる人材は、もうすでに存在しないようだ。
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by noanoa1970 | 2011-02-13 15:50 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(4)

Commented by HABABI at 2011-02-13 23:28 x
sawyerさん、こんばんは
「アメリカ」、スメタナSQで聴き始め、彼らの実演でも聴いたことがありますが、期待した楽しさが伝わって来ない感じでした。しばらくしてヤナーチェックSQのロンドン(デッカ)盤(LP)を入手し、その親しみを覚える演奏が気に入って、ようやくこの曲を楽しむことが出来ました。
ドロルツSQの録音は1枚(LP)だけ持っています。エッシェンバッハのピアノで1966年に録音したシューマンのピアノ5重奏曲他です。爽やかな印象の演奏です。そのLPのジャケット裏の解説によれば、ドロルツSQは1952年ベルリンでデビュー。第1ヴァイオリンのドロルツはベルリン・フィルのメンバー、第2ヴァイオリンのシュケはベルリン放送交響楽団のメンバー、ヴィオラのパッサッジョはザグレブ合奏団の元メンバー、チェロのドンデラーはマイナルディの生徒。全員ドイツ人のようですが、sawyerさんお持ちのCDとは、メンバーが違うように思います。ネットで調べると”ベルリン・フィルの主席クラス”と書いたものがあり、チェリストの名が書かれていてそれが上記と違っていました。
ところで、昔の廉価盤は、今見ると本当に宝庫ですね。宝探しを楽しんでいます。
Commented by noanoa1970 at 2011-02-14 06:36
HABABI さんおはようございます。
ヤナーチェクのアメリカは多分同じLPだと思います。この演奏が一番お気に入りでした。
ドロルツのメンバーの情報ありがとうございます。
小生のものは、アメリカでももう1枚の60年代~64年録音「死と乙女・鱒」でも、同じメンバーで、第2Vnワルター・パシェク、ヴィオラのステファノ・パッサッジョ、VCがジョージ・ドンデラーとなっていますから、第2Vnが交代したものと思います。初期とはメンバーが交代しているのでしょう。SQなどの室内楽団は、よくメンバー交代しますから、それによって微妙に音楽が異なることがありますね。多分スメタナは典型的なように思います。しかしヤナーチェクメンバー交代していると思いますが、新旧でほとんど音楽的変化が少ないのは、ある意味すごいと思います。ヴィオラが活躍するアメリカ、ドロルツではパッサッジョが上手です。ポイントの歌いまわし、ヤナーチェクと双璧だと、小生は感激しております。
Commented by pororompa at 2011-03-03 19:33 x
ご無沙汰しています。この記事を読んで、ドロルツSQの「アメリカ」買ってみました。いいですね。よく歌うというか。カプリングのスメタナの方も、持っているアルバン・ベルク盤よりいい感じがします。
またよく聴いて、自分のブログで感想書いてみます。
Commented by noanoa1970 at 2011-03-04 06:09
pororompa さま、こちらこそご無沙汰いたしました。
古い録音の割には、マスターリングがよく、新鮮な音がしますね。したがって演奏の良さもすごくよくわかります。
記事では少ししか言及しませんでしたが、カップリングのスメタナ「わが生涯」、愛聴してきたヤナーチェクSQに匹敵するような名演だと、小生も思います。解釈に相当な違いがあるのでしょう、定評があるとされる、スメタナSQの演奏は、寝ぼけて聴こえてしまいます。是非ともお聞きになった感想のUPお願いします。楽しみにしています。