イオン

なかなかブログ更新ができないまま過ごしたが、その間音楽だけは相も変わらず聞いてきた。

数あるベートーヴェンのソナタの中で、俗称「ハンマークラヴィーア」という29番は、これまでなぜかあまり熱心に聞いてこなかった気がする。

多分その長さに原因があるとは思うが、それでこの際29番をまとめて聞こうと企んだ。

今まではグルダの演奏を、しかも流し聴きしたに過ぎないから、これはもったいないとばかり、聞くことが可能な演奏家のものをすべて聞いてみることと決めた。

最近TVで辻井君の演奏を途中から見たが、演奏曲目がハンマークラヴィーアと判明したのは、しばらくしてからだったから、いかに熱心に聞いてこなかったかがわかろうというもの。

辻井君は、このような楽曲までもこなすようになったのかと、感嘆したが、彼を正当に評価するには、彼のマイナー要素を加点ポイント都市内聴き方も必要だろう、そしてそうなることによって、この先彼が超1流となるか否かが決まってくるような気がする。

3楽章終了時に、観客の一部から拍手が起こったが、絶賛の拍手なのか、この曲が4楽章構成ということを知らない、辻君ファンによるものなのか。

いずれにしても3楽章は、聞かせどころの厳しい曲である。

グルダ、ハイドシェック、ケンプ、バックハウス、イーヴナット、ギーゼキング、ツェヒリンを、しかもそれぞれを数回ずつ聞いた。

1曲が40分以上もある大曲だから、のべ10時間余り聞いたことになるが、寝転んだりしながら聴いたので、3楽章でついウトウトしてしまうこともあった。

この曲は、激しさを伴う「フーガ」で構成される、終楽章が特に有名であるが、それとともに、小生が目をつけるにいたったのが1楽章のアタック和音。

アタックの鋭い和音で構成されるものは「運命の動機」ではないかという推理。
5番の交響曲でおなじみの「運命の動機」、通常ジャジャジャジャーンと4つの音で語られるが、実は最初の音の前に無音の前打音ともいうべき音があるから、実際は「ズ」ジャジャジャジャーンと5音というのが正しい。

そういう観点からすると、1楽章の出だしの和音のアタックには、2つの音に挟まれて、「運命の動機」が隠されていると思える。

さらにこのアタック和音には、ミスタッチかと思えるような1音があり、気になって手持ちのすべてを聞いて確認したが、いずれもがそのように弾いていたから、これはミスタッチではない。

バレンボイムの演奏が動画であったので参考にどうぞ。


するとこれは、ベートーヴェンか、あるいは楽譜出版社のミスプリかなどと考え、何度も聞いているうちに、これこそがベートーヴェンの作曲上のテクニックではないかと気がついた。

その音は多分・・違うかもしれないが、高音のcの音で、その音が加わることで、「和音」を乱し、不安感が根底にある、強い緊張感を引き出しているのだ。

このイレギュラーな音を強調して弾いているのはギーゼキング。

小生の高い評価のツェヒリンは、最初はさりげなく、リピートではやや強調していて、このイレギュラーの1音の処理が、演奏家によってかなり違うことが確認できた。

ベートーヴェンには「不協和音」使用を割と認めることができるが、ピアノでこういうことをやられると、非常に目立つから気になって仕方がない。

不協和音とも聞こえるが、そうではなく別の響きをわざと加味することで何かを強調する、ベートーヴェンの技とも・・・だからこれも「和音」であるということになるやもしれぬ。

とにかくこの1音がものすごく効いていて、和音のアタックの連打とともに、これからはじまる物語を予感させるだけの力を発揮していることは、多分間違いないだろう。

「イオン」・・・「倚音」:「外音」とも、音楽用語で言うらしいが、ここでは「和音外音」と言ったほうが分かりやすいかもしれない。

これ以上は専門的になるので、書ききれないが、是非この1音を聞きとっていただければ、たった1音がどれだけ重要な位置を占めるかが、お分かりになると思う。

3楽章のアダージョは、小生にはベートーヴェンの「レクイエム」に聞こえてしまうが、このあたりについてはまた後日。

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by noanoa1970 | 2010-04-16 15:24 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(0)