カザルストリオでシューベルト1番を聴く

1928年録音のSP復刻、デジタルファイルにしたものからDLした。
既発売のSPそのものやLP復刻では、音質は相当良くないから、敬遠されがちだが、それでも昔からのファンは、大事に聞いてきたと思われる。

ここ最近、CD復刻リマスター技術がかなり進歩してきて、少し前では、あれこれ弄り倒して音楽そのものをダメにするケースが結構多かった。

しかし昨今では、そのあたりが改善されつつあるようで、DLした元音源の正体は確認できないが、聴いてみると、期待をはるかに超えた高音質(1938年録音とは思えない)であった…もっとも、バイオリン、チェロ、ピアノは、SP音源でもかなり程度のよいものが散見される。

カザルストリオは、カザルス、ホロヴィッツ、そしてティボーという、往年の名演奏家として名を残している、いわばスーパースターが集まったトリオだ。

経験的には、特に室内楽では、名のある者同士が参集したものに、良い演奏が少ない。
むしろ長くトリオやカルテットなどを組んで音楽をやってきた小集団に、あまり評価されてないが、素晴らしい演奏をすることが少なくない。

「百万ドルトリオ」として名高い、ルビンシュタイン、フォイアマン、ハイフェッツの組み合わせも、すべてにわたって素晴らしいかといえばそうも言えないところがある。

理由は多々あろうが、ここではそれについての言及は避けておこう。

それで、彼らの演奏はどうであったのか。

アインザッツこそ少しずれているものの・・・・バイオリンのティボーのリードがよくわかる・・しかし思惑は大外れしかも良い方向に外れた。

これは大変息のあった演奏だ。

カザルスもコルトーもティボーのリードに身をゆだね従って、優美なシューベルトを聞かせてくれた。

かなり練習を積んだのか、それともさすがは1流の演奏家、これぐらいのアンサンブルはわけもないのだろうか。

あるいは・・・・
そう思って調べると、このトリオの結成はなんと1905年ということが判明。

この録音はそれから30年以上たち、ティボーが55歳、カザルスが62歳、そしてコルトー61歳という、いわば円熟期の演奏録音だ。

結成してから30数年の・・・大いに気ごころの知れたトリオのようであった、だからレコード会社の思惑によって、にわかに仕立てられた名だたる演奏家の集まりとは一線を画すわけである。

小生はこの曲が2番とともにお気に入りで、新旧取り混ぜ、様々な演奏録音、生ではボーザールトリオを聴きに行ったが、この曲にも・・・特に2番はそうだと思うが、シューベルトの2面性が潜んでいるように思う。

ザックリ言ってしまえば、優しさや美しさが前面に出てくるものと、その反対でしかも表面的には明るく優しいが、その奥に潜むシューベルトの屈折した心情、暗黒面をも表出するような演奏があるように思える。

どちらもシューベルト、自分のその時の好みで、いずれのサイドをチョイスして聴くようにしているが、前者の代表例として、スークトリオの旧番、後者の代表例はウイーン・ベートーヴェントリオの演奏であろうと思う。

さてカザルストリオはというと、やはり時代性を反映してだろうか、美しさと優しさそしてそれに加え、何かに向かおうとする推進力、力強さをも感じることとなった。

歌うところはテンポルバートを巧みに生かし、歌いきっているし、各パートの掛け合いも、・・・往々にして有名演奏家の集まりでは、火花を散らすことがあるが、ここではまったくそのようなことがなく、じつに気持ち良い音楽が、信頼感あふれるパートナーシップの元で醸し出される。

個人的個性を表面に出そうとせず、お互いの音をよーく聴いたうえでの、そして相手が何を望むのかを常にキャッチアップしたような演奏だ。

かといって彼ら固有の「~節」での聞かせどころをちゃんと心得ていて、誰のチェロ、誰のピアノ、誰のバイオリンかが、単独演奏を聴きなれた人には、すぐにそれとわかるようになっているのが、彼らのアンサンブルの真骨頂だろうか。

録音が古いとか、演奏スタイルが古い(演奏スタイルの新旧は、実をいえば存在しないく、最新といわれるものでも、過去の焼き直しに過ぎない)とかで、聴くのを拒否し、最新の録音ばかり聴いている方もいらっしゃるようだが、非常にもったいない話だ。

少し昔では余分な出費を迫られるから、ごくマニアックな人しか聴かれなかったのも事実ではあるが、昨今このような演奏録音が無料D+出来るわけだから、門戸をもう少し開いても良いと思う。
きっと今まで抱いていた概念:思い込みが相当変わると、小生は思うところだ。

時代の演奏を聴くことは、当時の音楽を取り巻く文化をも知るチャンスになりえるのだから。

これは小生の持論だが
料理ばかりに目が行ってしまって、その料理が盛られる器には全く興味を示さない、そんな人間はグルマンでもなんでもなく、ただの料理フェチにすぎない。

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by noanoa1970 | 2009-12-08 15:18 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(2)

Commented by こぶちゃん at 2009-12-08 20:47 x
すごいトリオですよね。録音は当時最高の機材と人材を誇ったEMI(Pathe Marconi?)。
SP、またはそれ以前ですが、音から馥郁たる香りが漂うのでしょうね。
そんな名人の集まりに加え、録音テープも高価だった時代ですからスタッフを含め、メンバーの集中力も違っている気がします。
かたや、ルビンシュタイン、フォイアマン、ハイフェッツの録音は戦後ですし、レコードが出始めた頃で販売側主導による即席ユニットという感じかもしれませんね。
ルービンもハイフェッツも室内楽…特にアンサンブルが得意なタイプでは無さそうなのも痛いかも(笑)。

> 料理が盛られる器には全く興味を示さない、そんな人間はグルマンでもなんでもなく、ただの料理フェチ

ははは、確かに料理フェチかも?
ただ、録音のクォリティ云々は、好き嫌いがあるし、聴いてきた文化の違いがあります。
一言でくくるのは難しいですが、SPのスクラッチ&ヒス・ノイズの中からでも演奏の質を聴き取れるのは幸せだと思います。
Commented by noanoa1970 at 2009-12-09 07:13
こぶちゃんさん
本日から約1週間ネットの環境下にない場所に行くことになりました。コメ返しはその後となりますことをご勘弁ください。
取り急ぎ連絡まで。