エリー・ナイの皇帝

エリー・ナイというピアニストは、その政治信条から敬遠されがちではあるが、例え彼女が熱烈なヒトラー信奉者であろうと、ナチス党員であろうと、その音楽性をいささかも汚すものではない。

つまり芸術領域と政治は、関係性がまったくないとは言えないが、芸術の内容…ここでは音楽演奏には全く関係性はないということである。

小生は10年ほど前に、全集となって復刻した中に収録された、エリー・ナイの同じ「皇帝」を、彼女の夫である「ヴィレム・ファン・ホーフストラーテン」とニュルンベルグ管弦楽団という組み合わせで聴いてきた。

本日例のサイトに、これは珍しい・・・カールベームとナイの組み合わせの「皇帝」を発見し、すぐにDLしたのであった。

まず驚くのは1944年の録音にも関わらず、録音状態がすこぶる良いこと。
したがってナイのピアノもベームがコントロールするウイーンフィルのオケの音も、とても鮮明である。

1944年といえばベームが50歳のとき。
ウイーンフィルとの同じころの録音で、小生は「未完成」とベートーヴェン8番交響曲を長く聞いてきたが、やはりベームの演奏は基本がしっかりしていて、いささかもぶれがない。

また録音のことを言うのだが、同じ頃のその録音と比べて今回の録音は相当いい。
とてもSP復刻のリマスターリングでは、ここまでの音にはならないだろうから、やはり大本の録音が良かった…あるいは、なにか特別な録音であろうか。

そのおかげでナイのピアニズムがとてもよくわかる。
女流でこのような・・・男性顔負けのピアニストは、後輩のブルショルリがあるが、ナイはさらに豪快そして奔放といってよいだろう。

晩年になっての新録音では、カナリのミスタッチが見られたが、そんな些細なことはまったく気にならないナイのピアノにただ圧倒されるばかりであった。

ナイ62歳のこの録音でも、ところどころにミスタッチがある、しかし彼女の音楽はそのような技術的なピアノ領域を遥かにに越えた所にある。

彼女は、バーチャルに、ベートーヴェンになりきっているがごとくに演奏する・・・それが小生の実感である。

彼女に隠れファンが多いのも、彼女のピアノを聴けば大いにうなづけることである。

より音魂のこもった演奏として、ステレオの新録音より、こちらのベームとの録音を小生は推したい。

[PR]

by noanoa1970 | 2009-11-07 13:43 | 徒然の音楽エッセイ | Comments(2)

Commented by こぶちゃん at 2009-11-09 12:04 x
DGに異動してからのベームは、とろくてメリハリが感じられず、全く面白くない演奏が多いのですが、それ以前の演奏は軽快で相当面白いですよね。
特にオペラは、ちゃんと歌手の特徴を引き立てていますし、何より音楽を演奏する喜びに溢れている気がします。
44年のウィーン・フィルの演奏…ということはナチス傘下のオーストリア。
ナチスに協力的でない演奏家は活動をさせて貰えなかった時期でしょう。
録音が残っているだけでもスゴイことですね。
Commented by noanoa1970 at 2009-11-09 14:36
驚くほどこの録音は鮮明です。ナチス政権下の録音技術レベルは相当高かったものと思われます。史上初のステレオ録音もこの時期になされたのではなかったでしょうか。
DGでのベームでよいと思うものは、Rシュトラウスのオペラと「魔笛」しか、小生にはありません。あの茫洋とした後年の音楽、日本人の評価は高すぎではないでしょうか。